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【ビブリオエッセー】一兵卒の気概と温かい心 「『粗にして野だが卑ではない』石田禮助の生涯」城山三郎(文春文庫)

 ソフト帽に蝶ネクタイ、蝙蝠(こうもり)傘を片手に国府津(こうづ)駅のプラットホームに立つ老紳士は第五代国鉄総裁の石田禮助。表紙の写真通り、「ちょっとハイカラなおじいさん」である。国府津は石田が長く暮らした地元だ。

 昭和38年、池田勇人首相の財界人起用の方針を受けて親友の石坂泰三の頼みに応じ、総裁を引き受けた石田。数えで78歳だった。石田は意気揚々とこう答えたという。気持ちは「ヤング・ソルジャー」で「心はウォーム・ハートじゃよ」。人生百年時代の今を何十年も先取りしたような言葉と気概に敬服する。

 戦前、三井物産の商社マンとしてシアトルや大連、ニューヨークなど長い海外赴任で華々しい業績を上げ、代表取締役までつとめた石田は、商売に生きた後の人生を「パブリック・サービス」に充てると揺るぎない信念を持っていた。

 初めて国会に呼ばれると居並ぶ議員を前に、「粗にして野だが卑ではない」という堂々たる自己紹介で有名になる。自分は山猿だが金銭にも権力、権威にも卑屈にならない、そういう意味だろう。胸に響く言葉である。

 9年前、87歳で他界した父は国鉄マンだった。戦前、15歳で職員となり、復員して復職、JRとなる少し前、ほぼ40年間勤め退職した。石田総裁の頃は奈良駅の助役として勤務していた。後任の総裁の名で表彰状をいただいたことなど思い出しながら、この本を読んだ。

 高度成長下の国鉄改革を担った石田禮助。評価はさまざまだろうが企業統治の信頼が損なわれ、モラルが問われている今、城山さんが描く、ピシッと一本筋が通った石田の生き方に、清々しさを感じた。

和歌山県かつらぎ町 奥村喜代美 70 

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