PR

ライフ ライフ

【話の肖像画】作家・阿刀田高(85)(9)蛮勇ふるった「新トロイア物語」

前のニュース

エーゲ海のデロス島で。海外への取材旅行にも数多く出かけた(阿刀田高さん提供)
エーゲ海のデロス島で。海外への取材旅行にも数多く出かけた(阿刀田高さん提供)

 《平成7年、初の歴史小説となった『新トロイア物語』で吉川英治文学賞を受賞した。古代ギリシャを舞台としたトロイア戦争の英雄、アイネイアスが主人公だが、日本の作家が海外の英雄を小説にする例は珍しい》

 ずっと短編小説を書いてきましたが、歴史物の長編小説を書いてみたくなったんです。でも、日本の英雄はみんな誰かが書いている。織田信長なんかは、司馬遼太郎さんの『国盗り物語』を読んだらもう書く気がしませんよ。あれだけ見事に書かれていたら。

 でも、少し知識のある、トロイア戦争なら書けるかもしれない。日本では、木馬に戦士が潜んでいた物語がよく知られていますが、ほかにもたくさんのエピソードを含んだ、おもしろい叙事詩が伝えられています。古代ギリシャの詩人、ホメロスが『イリアス』と『オデュッセイア』という2冊の古典で語っています。ただ、話が単調で現代の小説にするには少しストーリーが弱かった。

 資料を調べるうちに、トロイア王家の末裔(まつえい)で、地中海をさまよった末にローマ帝国を作った、アイネイアスを主人公とすることに決めました。ローマの詩人、ヴェルギリウスがアイネイアスについて残した作品もありました。フィクションを織り交ぜ、歴史物語を創造することにしたんです。

 風土も人間も知らない土地を書くわけですから、難しいこともたくさんありました。いちばん困ったのが日常的なことです。たとえば、アイネイアスは王家の人間ですが、周囲からなんて呼ばれていたか分からない。ヴェルギリウスの作品にも、そんなことは書いていません。だから、髪をプラチナブロンドの設定にして「銀」と呼ばせることにしました。出てくる登場人物に名前を付けるのも大変で、現代風の解釈を加えました。

 《執筆のため、2週間かけて舞台となったエーゲ海や地中海を巡った》

 あの頃は出版界も景気が良くて、海外取材の機会にも恵まれました。エーゲ海は石灰岩が多いからか、日本の海より青が濃かった。アイネイアスは海を渡り、島々を巡ったけれど、私は飛行機を使いました。実際に旅をすると、距離感やどう動いたかが気になってくる。古代では船は危険を避けて沿岸を走っていましたが、港の人が必ずしも歓迎してくれるわけではない。弓矢で抵抗してくるかもしれない。どういう交渉をしたんだろう、と想像力を働かせました。

続きを読む

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ