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【書評】『ステレオタイプの科学』脅威に潜む人間の哀しさ

 □『ステレオタイプの科学 「社会の刷り込み」は成果にどう影響し、わたしたちは何ができるのか』

 ステレオタイプの語源をたどると印刷のステロ版から来ているようだ。大量に印刷すると版が摩耗するので、同じ版を多数作っておく方法があみ出され、その同型の版のことを「ステロ版」と言うらしい。そこから転じて社会学的に「思い込み」のような意味になったという。

 なるほどと思う。性別、人種、職業、学歴、さまざまな「版」が世の中には存在し、私たちは差別や偏見は持たないと言いながら著者の主張する「差別などの悪意が存在しなくてもステレオタイプの脅威は存在する可能性がある」というように、もっと根深いところで無意識のうちにこの「版」に影響されて生きているのかもしれない。

 著者は、刷り込まれた「ステレオタイプ」の「脅威」が無意識のうちに個人のパフォーマンスを左右してしまうという研究で脚光を浴び、今は幼児教育などさまざまな分野に影響を及ぼしている。「女性は数学が苦手」「年寄りは記憶力が悪い」などの刷り込みのために、実力が発揮できないという事実、そしてそれらを軽減する方法など、多くの実験とともに書かれている本書は、一つ一つ読んでいるのは教室にいるようで楽しい。しかし同時に「ふーん」と読みながらも、自分の頭の中に実はさまざまな「刷り込み」があることにも気づかされて愕然(がくぜん)とする。

 新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)でステイホームをしていたとき、未解決事件を紐(ひも)解くアメリカドラマのシリーズを見たが、その中で痛感したのが「男女差別」「人種差別」などあらゆる差別が至る所にあり、それを形成しているのが「ステレオタイプ脅威」なのだということだった。

 しかしステレオタイプ脅威はなくならない。これは残念ながら事実である。ただ、縮小、緩和することはできると著者は言う。まさに新型コロナウイルスと同じである。私たちは白馬の王子の出現を漠然と願うが、世の中のあらゆることに「万能薬」や「特効薬」はないのだ。ただ、その存在を認識し、自分で締めた縄を自分でほどくという、地道な作業を続けるしかない。「ステレオタイプ」の哀(かな)しさは人間の哀しさである。そのことをしみじみ感じたステイホームの期間の読書だった。(クロード・スティール著、藤原朝子訳、英治出版・2200円+税)

 評・神津カンナ(作家)

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