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【話の肖像画】作家・阿刀田高(85)(7)「異端」に開かれた直木賞

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直木賞を受賞し、芥川賞の受賞者らと祝杯をあげる (右から2人目)
直木賞を受賞し、芥川賞の受賞者らと祝杯をあげる (右から2人目)

 《『冷蔵庫より愛をこめて』が直木賞候補となってから半年後の昭和54年7月、短編集『ナポレオン狂』で直木賞を受賞した。当時は「異端の候補」と呼ばれ、話題をさらった》

 『ナポレオン狂』が直木賞の候補になったとき、「案外、可能性あり」という情報が流れてきました。そのときは夏の受賞だったんですが、夏物のちゃんとした背広を持っていなかった。「受賞が決まったら、みっともない服装じゃ嫌だな」「でもこういうことは手回しよく準備するとだめになるな」と迷いました。結局、選考の2日前くらいにベージュの背広を買いました。当日はその背広をかたわらに、仕事場で『ナポレオン狂』を出した講談社の担当者と連絡を待っていました。そんなにドキドキもしていなかったかな。

 『ナポレオン狂』は当時、「異端」と言われていました。当然だと思います。今までの直木賞の傾向とは違いましたから。同じく「異端」とされた星新一さんや筒井康隆さんも直木賞の扉の前に立ったけれど、ドアが開かなかった。私が立ったときにふっと開いたのは、時代のムードがあったから。選考委員を後に務めた山口瞳さんが「阿刀田くんの登場で少し変わったね」とおっしゃっていました。

 従来とは違う、エポックメーキングな作品だったと思います。あの時代に異端といわれたものが、今ではひとつのジャンルとなった。私の作品は古い感じになっているかもしれませんが、後継者が出てきてパイオニアとしての価値をなくしていくのは、どの分野でもあることです。

 《『ナポレオン狂』は、ナポレオンの生まれ変わりと信じている男とナポレオンの遺品のコレクターが出会う話。ヒントになったのは、図書館司書時代の体験だ》

 あのころ、珍しい図書館を訪ねて文章を書く仕事をしていたのですが、当時渋谷にあったゲーテ図書館(東京ゲーテ記念館)に行きました。コレクターの粉川忠さんはゲーテに関するものなら原著はもちろん、翻訳書、研究書、エッセーなど、なんでも集めていました。そのときは「小説の主人公になってもおかしくない人だなあ」と考えていました。後に粉川さんのことを思い出して書いたのが『ナポレオン狂』です。ゲーテのコレクターは限られているのでナポレオンにしたんです。

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