【島を歩く 日本を見る】田代島 ネコとともに震災乗り越え 小林希

東日本大震災の爪痕が残る地域には、いくつかの島がある。その一つが宮城県石巻市の田代島だ。
牡鹿半島の先端沖に浮かぶ周囲約11・5キロの小さな島は、震度6弱の揺れと大津波に襲われた。全壊・半壊した家は数軒。集落の塀や外灯が倒れ、港や漁船も甚大な被害に見舞われた。震災後に離島を決意した人たちもいたという。
私が田代島を知ったのは、震災以前にさまざまなメディアで「人口よりもネコが多い島」として紹介されていたためだ。石巻市のホームページにも、「島では大漁の守り神としてネコをとても大切にしている」と明記されており、市公認のネコ島なのだ。
震災から5年後、初めて田代島へ渡った。石巻の港周辺は依然、復旧作業が続き、寂寞(せきばく)とした佇(たたず)まいが目に映った。島の港は仁斗田と大泊の2カ所あるが、被災した大泊もいまだ復旧工事中だった。
一方で、集落は牧歌的で歩けばいくらでもネコがおり、ネコグッズを販売する土産物屋やネコ神社まである。島の人たちも、「このネコは誰それさんちの子だわ」と言って、家族のような眼差(まなざ)しをネコに向けていた。
老舗の漁師宿に泊まると、「昔はね、ネコも一緒に船に乗って漁に出たんだよ」と高齢のご夫妻が懐かしそうに話してくれた。今でも昔と変わらずに、早朝港に集まってくるネコたちには、漁で獲(と)ったばかりの魚をお裾分けをしているという。