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【話の肖像画】作家・阿刀田高(85)(1)せっかちな短編作家

阿刀田高氏(三尾郁恵撮影)
阿刀田高氏(三尾郁恵撮影)

 《筆歴は半世紀を超え、発表した短編はショートショートも含めると900作にもなる。新型コロナウイルス禍でも創作意欲は健在だ》

 80歳過ぎまで書いているとは思いませんでした。長編で人の一生を幸も不幸も、あしきところなんかもねっとり書くのは向いていないのかな。医者や技術者を目指していたので、理系的な部分がどこかにある。合理を好むし、私自身がせっかち。やっぱり短編作家なんですよね。

 《国立国会図書館司書として勤める傍ら執筆活動に携わり、作家デビュー。皮肉がきいた不気味な読後感の短編は「奇妙な味」と評された。昭和54年には『ナポレオン狂』で直木賞を受賞。文壇に新風をもたらした》

 もともと日常生活のなかの不思議なこと、奇妙なことに敏感でした。短編はアイデアを浮かべて、一つの細工物を作っていくような感覚です。たとえば昔、(東京・銀座の)数寄屋橋の交差点の真ん中にスエードのハイヒールが落ちていたんです。明らかに履いた跡がある安くない品。どういうことが起こればここにハイヒールが落ちたんだろうと想像する。調べたら実につまらない理由かもしれない。でも、考えるととんでもない物語が出てくる。日常のちょっとした不思議を別な角度から見ると、そこにストーリーが生まれてくるんです。

 《ライフワークの一つが古典の紹介だ。古典随筆シリーズ第1弾となる『ギリシア神話を知っていますか』は新潮文庫で67刷を達成。昨年末には、小説新潮で連載していた「谷崎潤一郎を知っていますか」が完結した》

 谷崎は日本の小説家として3本の指に入らなければならない存在。たとえば、『鍵』は夫婦の閨房(けいぼう)を描いたエロチックな内容で話題になりましたが、小説の構造として非常におもしろい。夫婦の交換日記のような形で進みますが、最初と最後で主人公が変わってしまう。小説の技が非常に優れている作家です。

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