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【ビブリオエッセー】名だたる数寄者との交流 「風流紳士録-籠師が見た昭和の粋人たち」池田瓢阿(淡交社)

 昭和の時代、公家華族や政財界の巨人たち、まさに貴顕名流の御歴々と数寄の道に交わった一人の匠がいた。籠師、二代池田瓢阿(1914-2003)。近代日本の実業界に永きにわたり君臨し、財界茶道の頂点を極めた益田鈍翁に見出だされた竹細工職人である。

 本書は瓢阿が書いた交流録の復刻本だ。名物の籠花入を写させれば(模作をつくれば)、どちらが本歌(実物)か見紛うほど巧みであったという。また、その生きざまも名の通り、飄々としていて後味がよい。水谷川忠麿、細川護貞、畠山即翁、松永耳庵、北村謹次郎、湯木貞一などなど。名だたる大数寄者たちとの交流は、彼の確かな審美眼と磨き上げられた技、そして風流の道によって編まれた軌跡である。

 中でも昭和13年、古美術商、石野力蔵に伴われて荻窪にあった首相、近衞文麿の荻外荘を訪れた時のエピソードが面白い。文麿が庭にある金明竹(きんめいちく)を瓢阿にすすめながら落語「金明竹」の上方風の早口言葉のような言い立てをそっくり諳んじ、伺候の面々を驚かせたという。

 実は文麿は青年時代、書生風に身をやつし、お忍びで寺の相撲大会に参加したり、そこで意気投合した植木職人と誘い合っては上野や人形町の寄席に落語や女義太夫を聴きに行ったりしていたそうだ。あまり語られることのない雲上の若君の逸話である。

 私は学生の頃、民俗学に関心を抱き、他方で茶道に熱中した。日本文化の基層には名もなき大衆の営みが絶えず流れている。しかし世界に誇るべき美術工芸を今に伝えられたのは、名物を家宝として伝え、職人たちを保護育成してきた粋人、風流紳士たちの賜物に他ならない。

 大阪府八尾市、松村翔太33

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