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【ビブリオエッセー】「ウソの人生」は幸せか 「ブラッド・ロンダリング-警視庁捜査一課殺人犯捜査二係」吉川英梨(河出書房新社)

 誰にだって思い出したくない過去のひとつやふたつはあるものだ。さらには過去を消して、まったく別の自分に生まれ変わり、人生をやり直したい-。そんなふうに思ったこともあるのではないだろうか。

 警察小説が人気の作家、吉川英梨さんの新刊『ブラッド・ロンダリング』では、新米刑事と女性刑事のコンビが、そうした現代人の潜在的な願望から起こる殺人事件の謎に迫っていく。

 都内のビルの駐車場の車に真っ逆さまに突き刺さったフリー記者の転落死から事件は始まる。その背景には、ひとつの集落を消滅させた大火事と加害者の家族が背負った過酷な運命があった。残された「果無」という地名。事件を追って舞台は奈良の十津川村へ。

 昨年話題になったルポ『つけびの村』にも描かれた、山口県の集落での連続殺人放火事件を思い出した。小説では同じような集落で起きた凄惨な放火事件の<真実>があぶり出される。過去を消して、人生のやり直しに成功しても、結局、<ウソ>の人生は切ない。

 一方、事件を追う男女の刑事にも消せない過去と血のつながりがあった。事件解決と同時に彼らも出自や過去と向き合わざるをえなくなるが傷つきながらも選んだ道に希望を感じた。自らに正直であろうとするからこそ前向きに生きられるのだろう。別人として人生をやり直すという出自の洗浄「ブラッド・ロンダリング」は私たちを幸せには導かないのかもしれない。

 ネット上で匿名を使い別人になったかのようにふるまえる時代となった。でも、現実の人生はなかなか変えられない。そんな今だからこそ読んでほしい本だと思った。

 埼玉県所沢市 中尾秋 44

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

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