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【ビブリオエッセー】真贋問題に一石を投じた推理 「完全版 ゴッホの遺言」小林英樹(中公文庫)

 楽しみにしていた兵庫県立美術館のゴッホ展が新型コロナの影響で期間が短縮されて閉幕となり、残念ながら見に行けなかった。あの「糸杉」をこの目に焼きつけようと意気込んでいたのだ。ならばせめてゴッホの関連本を、と図書館へ行き、ウインクされたのが『完全版 ゴッホの遺言』だった。

 この本でゴッホに近づこうと考えた。ゴッホの研究者で画家でもある著者の目線で、これは贋作ではないかと疑う作品に細かい分析で迫っていく、スリリングな推理の面白さに引き込まれる。小説ではないが日本推理作家協会賞の受賞作だというのも納得だ。

 著者が贋作だと推理するのはゴッホが弟テオに送った「寝室」のスケッチ(とされているもの)である。アルルの「黄色い家」の寝室だ。ベッドや椅子や壁にかかっった絵、オレンジ色の色調が印象的な絵だが、そのモノクロのスケッチがゴッホの手になるものではないとする説を、構図や家具の位置やさまざまな要素を引き合いに、鋭く論理的に立証していく。

 ゴッホはアルルで初期の暗い色調から明るい色調に画風を変える。その内面の分析も興味深い。ゴーギャンとの共同生活を夢見たゴッホは輝く陽射しを受ける黄色い家を準備した。心躍るゴッホ。幸福の絶頂を黄色で表現したのだろう。数々の「ひまわり」はこの時期に描かれた。しかし二人の間にやがて暗雲が立ち込め、あの事件で決裂する。

 真贋はわからないが小林さんの論は説得力があった。ではその死の真相は? 弟テオやその妻ヨーとの確執。悩むゴッホは精神的に追い込まれていったのか。こちらの推理も興味深いが、兄弟の生涯は何度読んでも涙を誘う。

滋賀県湖南市 川嶋富紀子67

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