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【ビブリオエッセー】もう一つの日本からの警告 「ヒュウガ・ウイルス-五分後の世界II」村上龍(幻冬舎文庫)

 『五分後の世界』の続編「ヒュウガ・ウイルス」。舞台は現在より五分間時空のずれた日本。このもう一つの日本では沖縄戦の後、広島、長崎のほか小倉、新潟、舞鶴に原爆が落とされる。その後も米国との本土決戦が行われ、虐殺、飢餓、疫病で人口は2300万人に減少。今も国連軍を相手にゲリラ戦を繰り広げていた。

 大日本帝国崩壊後、帰還した一部の将校団が国家消滅の危機に際して新たな日本を興す。地底国家アンダーグラウンド(UG)。日本列島は他国に分割統治されていた。村上は物語の中で、戦闘国家でありながら高度な文化、芸術、科学を誇るUGをアインシュタインに視察させ、「いかなる意味の差別もない国はUGだけ」と賞賛させる。UG兵士は、最優先事項を決め、すぐにできることからはじめ、厳密に作業を行ない、終えると次の優先事項にとりかかる-というシンプルな原則で生きている。

 物語では、一人の女性ジャーナリストがUGの部隊に同行取材し、謎の感染症に侵された歓楽都市ビッグ・バンへ。自身の小説を情報の集積と語る村上らしく、架空のウイルスにリアリティーを与えるため生物学的な情報を徹底的に収集。地固めをした上で描いたヒュウガ・ウイルスは致死の神経伝達物質をつくる。

 UGの生化学研究所は向精神薬として開発した『向現』を治療に使うが『向現』の投与のみでは助からない。「現実に立ち向かえ」とのメッセージとも読み取れるその名。生死を分けるのは感染者が危機感をエネルギーに変えてきたか否かだ。感染後に生へと振り分けられた少年ジャン。視力を失ってゆく彼が現実に立ち向かってきた過程が、この上なく美しい。

兵庫県加古川市 茉莉亜まり 55

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