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【島を歩く 日本を見る】神々しきワンダーランドへ 奄美大島(鹿児島県奄美市など)

奄美群島の主要な島である奄美大島は、5市町村で構成。大部分が森で囲まれ、豊かな自然を誇る
奄美群島の主要な島である奄美大島は、5市町村で構成。大部分が森で囲まれ、豊かな自然を誇る
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 「おい、あまり動くなよ、ハブに襲われるぞ」

 今から10年前、出版社で編集の仕事をしていた私は、編集長と一緒になって著者に同行し、奄美大島へ取材旅行に来ていた。ある夜、島の天然記念動物のアマミノクロウサギを見にいくナイトツアーに参加した。

 島南部の山深い森の中へと四輪駆動車は進む。辺りは、都会には存在しない漆黒の闇が広がっている。嵐の去った直後で、道のあちこちに木が倒れ、時折進行を遮る雑木を鉈(なた)や鋸(のこぎり)で切り、なんとかしてアマミノクロウサギを見つけようとしていた。

 ところが、「しまった!」と運転していた主催者が言ったのと同時に、ガタンッという音がして、車は傾いた。タイヤが側溝に落ちてしまったらしい。

 静まり返った世界は、われに返ると思いの外うるさかった。ゲーコゲーコと鳴きわめくカエルの合唱団。それはすなわち、毒ヘビのハブが好むもの。島に多く生息するハブは、体温があるものを感知して捕食する。

 「電波の届くところまで歩いて、助けを呼んできます。それまで車の外で待っていてください」と言い残し、主催者は闇夜に消えていった。

 がさりと、何モノかが動く。見えない無数の瞳が私たちに向けられている気がした。濃すぎる自然の匂い。じっとりと湿っていく肌。ハブよりも先に、闇にのみ込まれそうだ。臆病で、弱い存在、それが自分なのだと思った。

夕暮れ時もまた美しい。年間の日照時間は日本一短いという
夕暮れ時もまた美しい。年間の日照時間は日本一短いという
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 直前、島の人に聞いた話を、私は頭ではなく心で会得していた。「自然には神様がいる。だから、畏れ多い。そしてヘビは神様の使いだ。仮にヘビが道を横切ったら、そこは“神道”だから通ってはいけないよ」と。

 無事、名瀬のホテルに戻って、「じゃあ、おやすみなさい」と方々部屋へ戻ろうとした途端、「あ」と呼び止められた。振り向くと、ニヤニヤしながら「誕生日だろう。一生忘れられない日になったな」と編集長に言われた。

 腕時計を見ると午前零時を過ぎていた。

 それまで、アマミノクロウサギに導かれ、どこかへ冒険していたみたいだ。島はワンダーランドなのだろうか。不思議で、ドキドキして、面白い。

 一つ年を重ねた日からずっと、私はその世界を旅し続けている。

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 ■アクセス 空路は東京、大阪、福岡などからの直行便、鹿児島からフェリーを利用する航路もある。

     ◆

【こばやし・のぞみ】昭和57年生まれ、東京都出身。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。1年後に帰国して、『恋する旅女、世界をゆく-29歳、会社を辞めて旅に出た』(幻冬舎文庫)で作家に転身。主に旅、島、猫をテーマに執筆およびフォトグラファーとして活動している。これまで世界60カ国、日本の離島は100島をめぐった。令和元年、日本旅客船協会の船旅アンバサダーに就任。著書は『週末島旅』(幻冬舎)や『週末海外』(ワニブックス)など多数。オンラインサロン「しま、ねこ、ときどき海外」を運営。

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