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【書評】『陸軍中将 樋口季一郎の遺訓 ユダヤ難民と北海道を救った将軍』

  ■意欲並々ならぬ改憲論も

 近年、元陸軍中将・樋口季一郎に関心を寄せる人が増えつつある。

 樋口はハルビン特務機関長であった昭和13年3月、ナチスドイツの迫害から満洲国に逃れてきたユダヤ難民に対してビザの発給を特別に指導。多くのユダヤ人の命を救った。これは有名な杉原千畝の「命のビザ」の2年も前の話である。

 樋口の功績はこれだけではない。昭和20年8月、「北の備え」である第五方面軍の司令官だった樋口は、終戦後に千島列島の占守島に侵攻してきたソ連軍に対し、自衛戦争としての「徹底抗戦」を命令。同島の守備隊はソ連軍の南下を見事に食い止めた。この戦いがなければ、北海道はソ連によって分断統治されていた可能性が高い。

 しかし、そんな樋口は戦後、「忘れられた存在」となった。戦後日本は「軍人の功績」を史実であっても公に語れるような社会ではなかった。今からちょうど10年前、私が樋口の評伝を書いたとき、その知名度はゼロに等しかった。だがここ数年、樋口への関心が次第に高まっているのは、近代史を是々非々で冷静に理解したいという人が増えている証しであろう。

 そんな中で刊行されたのが本書である。編著者は樋口のお孫さんで、音楽学者としても著名な明治学院大学名誉教授の樋口隆一氏。戦後、樋口は自宅の書斎で多くの文章をものしたが、それら未発表の原稿を主にまとめた大作である。親族でしか知り得ない隆一氏の筆による回想録も冒頭に盛り込まれている。

 樋口の遺稿は、軍事論や外交論、宗教論など多岐に及ぶが、中でも憲法論には多くのページが割かれている。樋口は鋭く改憲論をつづる。「いわゆる『日本国憲法』なるものは、米国の日本占領中にできたものであり、日本の民族主義的愛国者(ナチオナリスト、パトリオート)が追放され、マッカーサーの権威が至尊(評者註・天皇)のそれに優先せる御代に制定(または改正)されたものであった」。樋口は憲法前文の私案まで記している。樋口が改憲に並々ならぬ意欲を持っていた様子がうかがえる。

 「ユダヤ難民と北海道を守った人道派将軍」の改憲論は注目に値する。(樋口隆一編著/勉誠出版・4500円+税)

 評・早坂隆(ノンフィクション作家)

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