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【書評】『金曜日の川柳』樋口由紀子編著 読者の現在と響き合う

『金曜日の川柳』樋口由紀子編著(左右社・1600円+税)
『金曜日の川柳』樋口由紀子編著(左右社・1600円+税)

 バラエティー番組(ドラマ含む)をこんなに多数無料視聴できる国は、先進国中でも日本がトップだと聞く。それだけスポンサー企業に経済力があり、安定した国だったということだ。

 番組制作数が多いということは、何かあれば影響が出る人数も多くなる。元の環境がいかに恵まれていたかありがたく感じつつ、「環境に左右されない“人間的娯楽”とはなんだろう?」と、この2カ月いろいろ考えていた。

 「川柳」は俳句と違い季語の約束もなく、比較的新しい定型詩だ。とはいえ約270年の歴史を持ち、多くの困難を越えて続けられてきた文学である。

 本書はウェブサイト「ウラハイ=裏『週刊俳句』」の同名連載をまとめたものだが、多数の現代川柳をまとめたアンソロジーは珍しいそうだ。333句収録、1ページ1句ごとに編著者、樋口由紀子さんのコメント付き。「知らない街を、あるいは知っているはずの道を、頼りになる案内人とともに歩く」という西原天気さんの解説の通り、川柳の入門にぴったりだ。

 難しいことは抜きにして、面白かった句を並べてみよう。

 <徘徊(はいかい)と言うな宇宙を散歩中><なんぼでもあるぞと滝の水は落ち><タスマニアデビルに着せる作業服><フンフンとお好み焼を裏返す>

 こうして並べると、自分はクスッと笑える軽妙な川柳が好きなのだなとわかる。歌集を出す目的で3年間短歌を作り続けていたため、川柳の短さ、思い切りのよさに憧れもあるようだ。

 また、詩歌の意味は読者の現在と響き合い変わることもある。例えば、<紀元前二世紀ごろの咳(せき)もする><三日月はガーゼを掛けてから握る>などの句は、作者の意図を離れ、現状の空気を含んで胸に落ちてきた。

 人間は何に幸福を感じるのか…。川柳や短歌には、それが色濃く残されており、時代問わず残るコンテンツとしての秘訣(ひけつ)ではないかと思う。

 わが家の台所の窓から見える一角にフジ棚があり、通りすがる人が足を止める。皆おそろいのマスク姿で、長い人は3分以上じっと眺めていた。その姿を見て、<心配もこたつですると眠くなり>という呑気(のんき)な日が早く戻るよう、改めて願った。(左右社・1600円+税)

 評・美村里江(女優、エッセイスト)

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