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【書評】『今日も町の隅で』小野寺史宜著 展開が読めぬわくわく感

  著者初の短編集だが、意外にうまい。意外、というのは長編向きの作家だと思っていたからである。不器用な作家だろうとも思っていたが、とんでもないのだ。器用なんである。11歳から42歳までの男女を描く全10編の作品集だが、たとえば「チャリクラッシュ・アフタヌーン」という短編を見られたい。

 語り手は28歳の小峰賢徳。友人からはケントと呼ばれてる。学生時代にバンドを結成してデビューしたが売れずに解散。その後はよそのバンドのライブにゲスト出演したり、金にならないイベントに出たりしているが、鳴かず飛ばず。アパートの家賃も最近では同棲(どうせい)相手の万弥(まや)頼み。そんなときに、ライブハウスのオーナーに声優のバイトを紹介される。やってみたら評判がいい。次も頼むよ、といわれるが、本人はまだミュージシャンに未練があるので、なんだかなあと思っている。

 で、アパートに帰ると、子供ができたと万弥に言われてドキッとする。それから喧嘩(けんか)になって「出てけ」「あんたが出ていきなよ」「じゃあ、出てく。けど一時間で戻る。それまでに出てけ」とケントが部屋を出る-そういう話である。とりあえず、そう思っていただきたい。この話を小野寺史宜は、どこから始めるか。これがうまい。最初の一行はこうだ。

 「ガツンと衝撃がきて、うわっとなる」

 自転車に乗った小学生とぶつかって地面に倒れるシーンから始めるのである。足をひねったみたいだから、父ちゃんか母ちゃんに会わなければならない、とケントは言って、少年のアパートに向かいながら「わざとぶつかってお前の親から治療費をふんだくろうとしてるわけじゃ、ないからな」といい、「好きな女子とか、いる?」と少年に尋ねたりする。その間に、3日前に万弥がなぜアパートを出ていったのか、語られるわけだが、この物語がいったいどこへ向かうのか、この段階ではまったくわからない。

 小野寺史宜の小説は読む前からいつもわくわくさせてくれるのだが、こういうふうに先の展開が読めないところにもその因がありそうだ。どういう着地が待っていると思いますか? ラスト一行が素敵(すてき)だ。(KADOKAWA・1700円+税)

 評・北上次郎(書評家)

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