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【書評】『ホームドアから離れてください』北川樹著 大型新人による青春小説

 すぐれた青春小説の醍醐味(だいごみ)は、新たな生の「始まり」の提示にあるのではない。むしろ「始まり」をこそ導く、従来の生への決別、「終わり」の描出だろう。現役大学生(この春卒業)、北川樹のデビュー作である本書は、そんな「終わり」をつよく意識した青春小説の佳作である。

 作中、公園の花をちぎってかざすミキさんは「写真に収める前に、摘みとりたくなっちゃう」と言い、「どうして?」と理由をたずねる「僕」に笑いかけた。「少年は、自分のことぜんぶ、すっきり説明できると思ってる感じ?」

 思えば、中学に入ったばかりの「僕」とコウキは、それぞれの生きづらさへの、納得のゆく「説明」を新たな環境である学校に求めていたのだった。

 二人は答えを得ようと柔道部に入り部活動に精をだす。しかし、そこに見いだしたのは、部員皆を縦につらぬく強い・弱い、勝ち・負けの序列だった。生きづらさをもたらした垂直的な序列が、いっそう重く二人にのしかかり、集団的ないじめを受けたコウキは自殺未遂を起こし、「僕」は不登校となった。

 学校による「説明」を拒み、「僕」はオンコチシンと名づけた、決別のための過去のとらえ直しを独り進める。そして、すでに人間関係の中心的なツールとなり、ともすれば言葉と情報の暴力と化す多機能携帯電話をタキノと呼び解約。こんな「終わり」の数々は「僕」を「空色ポスト」へとみちびいた。

 それは新宿御苑に設置されたポストで、自分が撮った写真を投函(とうかん)すると、別の誰かが撮った写真が届く。ささやかで日常的な出来事のシーンを介して、序列も年齢も無関係に、思いもよらぬ誰かと自分が水平的につながるのだ。三つ年上のミキさんと知りあったのも空色ポストの縁だった。

 3年後。空色ポスト写真展に赴いた「僕」に、奇跡のような至福の瞬間が、次々におとずれる-。

 ラストの圧倒的な明るさは、従来の暗い生を「終わり」にむけて存分にくぐりぬけた物語によってのみ可能となっている。たしかな思想性に、抜群の構成力と描写力をかねそなえた大型新人の登場である。(幻冬舎・1400円+税)

 評・高橋敏夫(文芸評論家、早大教授)

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