PR

ライフ ライフ

【書評】『古関裕而の昭和史 国民を背負った作曲家』辻田真佐憲著 時代体現した生涯を活写

 「図らずも激動の昭和を体現してしまった作曲家」

 昭和5年、21歳で福島から新妻を伴って上京し、翌年につくった早稲田大学の応援歌「紺碧(こんぺき)の空」が大ヒット。時代の要請に応え、「さながら音楽で戦史をたどれるがごとし」というほどに軍歌を多作し、戦後はハモンド・オルガンを駆使してラジオドラマの仕事に専心。平成元年に没するまでにつくった曲は5000を下らないとされる。

 この春始まったNHKの朝ドラ「エール」の主人公のモデルでもある古関裕而の来し方はたしかに、濃密かつ長く続いた時代をそのままなぞるようだ。

 ドラマ化に際し、古関の評伝が何冊も新たに刊行されている。古関の出身地である福島市には知人も多く、私にとってなじみ深い街で、JR福島駅の新幹線発着メロディー「栄冠は君に輝く」も幾度となく耳にしてきた。そんな縁を手がかりに、古関の自伝『鐘よ鳴り響け』を含め数冊を読んでみた。著者それぞれの古関裕而像が展開される中、最もわくわくしながら読み進めた一冊は、『日本の軍歌』『大本営発表』などの著書で知られる近現代史研究者、辻田真佐憲さんによる本書だった。

 古関が一心不乱に曲をつくる様を活写する、その筆そのものが弾んでいる。ただ単に個人史をたどり肉付けするだけのものにはおさまっていない。作曲者名を知らずとも、聴けば耳なじみのある曲だったと思い出されるだろう「六甲おろし」「モスラの歌」「オリンピック・マーチ」などはもちろん、社歌や校歌など、その団体に所属する人たち以外にはほぼ知られることのない曲をあまた手がけていた事実にもちゃんとページを割いている。戦前の日本においてレコードとはどんな存在だったか、その売り上げをつぶさにたどるくだりも読み逃せない。

 古関の10代、地元福島での独学の基礎にはクラシック音楽があった。「流行歌の作曲家として大成するにつれ、クラシック志向は表面上消えていく」ものの、「晩年もレコードやコンサートで聞くのはもっぱらクラシックだった」。その「芸術志向と商業主義のねじれ」が古関裕而らしい曲をつくり出す推進力になっていたという分析には、しみじみとうなずかされる。(文春新書・950円+税)

 評・木村衣有子(文筆家)

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ