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【書評】フリーライター・旭利彦が読む『職人の手』山崎真由子著 「手仕事」の世界に肉薄

『職人の手』山崎真由子著
『職人の手』山崎真由子著

 本書は食をはじめ酒場、筆記具、カメラ、下町、落語などの分野で活躍するフリーランスの編集者が、30~90代の職人16人に取材したルポルタージュだ。

 ガラスペン、洋傘、鍋、桶(おけ)、陶器といった日常的な品から江戸文字、仏像、篆刻、活版印刷など好事家向きのジャンル、さらに料理人、ビアホール店主、クリーニング師…。それぞれの“手仕事”で勝負する職人たちの仕事ぶり、人となりに文章と写真で肉薄する。

 たとえば、86歳の洋傘職人、小椚(おくぬぎ)正一さんの仕事の工程を説明するくだり。

 〈木製の型に合わせて生地を手作業で裁断し、型である「コマ」にする。コマは一見、二等辺三角形だが、両辺がゆるくカーブを描いている。この形状が傘の美しいシルエットを生み出す秘訣(ひけつ)であり、裁断次第で傘の全体のよしあしが決まってしまうのだ〉

 こうした仕事に対し著者は、「こんなふうにつくられる傘は幸せだ。なんでもかんでも使い捨てられる世の中だが、小椚さんの傘は、ずっと大切に使い続けたいと思わせてくれる」と書く。そして、大量生産全盛の中で職人の手仕事が衰退していく現代を、鋭いが抑制の効いた筆致で切り取る。

 職人とは何か? 桶を作る結桶(ゆいおけ)師、昭和35年生まれの川又栄風さんは「“言われた通りに”やっているだけでは半人前のまま」「『どうしてできないのか?』を延々と考え、カラダを動かした結果、自分のやり方がわかって、カラダに合ったものになっていったんです」と語る。

 ひたすら前を向き、「続ける」ことの尊さ。そんな職人ならではの“覚悟”が随所にちりばめられている。

 実は著者も、本書で仕事について告白する。ある酒場のマスターから「お前はひとのふんどしで相撲を取っている」「(取材で)得たことをさも自分の手柄のように語っている」といわれたのだという。悩み、考え続けた著者は、自身の仕事に「なにかを成している人のことを伝える役割」を見いだし、誇りを持てるようになったと。

 職人とその世界を読者に伝える編集者もまた“職人”だ。その気概が伝わる本書に、評者も限りなく共感する。(アノニマ・スタジオ・1600円+税)

 評・旭利彦(フリーライター)

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