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【書評】作家・西法太郎が読む『夜告げ鳥』三島由紀夫著 十代の情動、赤裸々に表出

『夜告げ鳥』三島由紀夫著
『夜告げ鳥』三島由紀夫著

 本書は作家・三島由紀夫が、『仮面の告白』で名を成す前に上梓(じょうし)を企図し挫折した自選アンソロジーである(評論、詩、小説を収める)。ときは昭和23年(三島23歳)で、戦中風靡(ふうび)した日本浪曼派の保田與重郎たちは失墜し、そこに依拠していた三島は官職に就きながら職業作家になろうと精神的に窮迫していた。妹が病死し、ふがいない失恋をし、太宰治に惨めな喧嘩(けんか)をうり、悪所通いで自覚したセクシュアリティに悩みもだえていた。その饐(す)えた昧(くら)い心象は「重症者の兇器(きょうき)」の〈苦悩は人間を殺すか?-否。思想的煩悶(はんもん)は人間を殺すか?-否。悲哀は人間を殺すか?-否。人間を殺すものは古今東西唯(ただ)一つ《死》があるだけである。〉に凝縮されている。“死”への固執は三島の痼疾(こしつ)である。その最中(さなか)に三島が編もうとした作品集が没後50年目に実現された。

 三島のすべてはその十代にある。三島は自決1週間前のインタビューで「自分の本質がロマンティークだとわかると、どうしても十代にハイムケール(帰郷)する」と告白した。理知の権化、自己認識の極致と思われている三島には身内から湧き上がるどうしようもない情動があった。詩にこの情動が赤裸々に表出している。「自分が贋物(にせもの)の詩人である、或(ある)いは詩人として贋物であるという意識に目ざめるまで、私ほど幸福だった少年はあるまい」と述べたためか、60余編の詩の研究はないに等しい。「十五歳詩集」として公表された16編以外が死後も永らく未出のままだったこともあるのだろう。三島は書くことを始めた幼少期に自らを詩人と思い定め十代まで詩作に没頭していた。没頭した詩への挫折が三島に齎(もたら)したものは重大だった。

 書名に採られた詩「夜告げ鳥」は昭和20年のもので、三島はここで日本浪曼派と隔離し、偏愛した詩人を斥(しりぞ)けた。そして“輪廻(りんね)”の語を肯定的に用い、最終行に“豊饒(ほうじょう)”の語を置いた。“輪廻転生”は遺作『豊饒の海』4巻の主調モチーフである。早熟の怖ろしさ。三島の構想にない「補遺」として収められた2作品はそれぞれ『仮面の告白』と『豊饒の海』につながる。井上隆史氏の「解説」は当時の三島の状況・心象を熱情的且(か)つ赤裸々に穿(うが)っている。(平凡社・2000円+税)

 評・西法太郎(作家)

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