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【書評】『綴る女 評伝・宮尾登美子』林真理子著 「理と情」のバランス絶妙

  宮尾登美子といえば、昭和、平成に君臨した大女流作家。数多くの作品で読者の心をつかんだ。また、その多くは映像化され次々にヒット。「なめたらいかんぜよ」のセリフでおなじみの『鬼龍院花子の生涯』をはじめ、『陽暉楼』『序の舞』、『天璋院篤姫』は大河ドラマの原作になった。そんな宮尾の熱烈なファンだという林真理子さんが、その作家人生に迫り、書き上げた評伝である。

 〈私をあれほど熱狂させた「宮尾ワールド」は、本当に存在していたのだろうか。登場人物の女衒(ぜげん)の岩伍は実在していたのだが、隆盛を誇った土佐の花柳界の話は本当だったのか……。フィクションと事実とのつき合わせを通して宮尾さんの小説の秘密を探ろうと思った。〉

 芸妓娼妓紹介業を営む生家で、売られていく少女たちを目にする環境のなか、自身はお嬢様として育った少女時代。若くして結婚し、夫とともに渡った満州での暮らし。一時、社会党に入党し労働問題にも関わっていたことなど作家として世に出る前から波乱続きの人生である。やがて作家になりたいという思いが高じ、「夫を捨てて」家を出る経緯や、なかなか芽が出ないまま借金ばかりを重ねていく姿など、今まで知られていなかった、宮尾自身も語らなかったことを浮き彫りにしていく。

 ある意味、「負の歴史」と言っても良いかもしれない出来事も含めて、事実をそのまま掘り起こしていくところは、まさに林さんの透徹した「作家の目」を感じさせる。

 一方、生まれてすぐの宮尾を手放した「実母」を追って、その子孫の話を聞いた林さんは、実母の晩年が安らかだったことをあたかも自分の縁者のことのように喜ぶ。あるいは宮尾が世に出るチャンスをつかみかけたときのエピソードで、林さん自身が「このままでは一生這(は)い上がることはできない」と切実だった若き日を振り返りながら思いをはせる。

 こうしたところは「熱烈な一ファン」としての心情がありのままで、温かい気持ちにさせられる。「理と情」の絶妙なバランスが宮尾登美子という「一人の女性の人生」へと読者を引き込んでくれるのは「林ワールド」のなせるわざである。(中央公論新社・1500円+税)

 評・麻木久仁子(タレント)

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