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【書評】『エンド・オブ・ライフ』佐々涼子著 語り合う「命の閉じ方」

 元気なときは、人生の最期(エンド・オブ・ライフ)をどう過ごすか、なかなか想像できない。だが、国は「誰でもいつでも、命に関わる病気やケガをする可能性がある。そのために人生会議をやってみて」と呼びかける。「人生会議」とは、どのような価値観を持って生きているか、あらかじめ周囲に伝える場のこと。病気やケガで意思疎通ができなくなっても、最期までその人の人生を周囲が支援できる。本書はそのイメージづくりのきっかけにもなる。

 主人公は京都の診療所の訪問診療チームで働く男性看護師。訪問診療とは、医療や介護のスタッフが患者の自宅へ訪問すること。患者は病状が落ち着いていれば、自宅で病院とほぼ同じような医療を受けられる。この在宅医療のよさは、住み慣れた家で自由に過ごせることだ。

 男性は看護師として、おもに死期が近い患者が死を受容する準備に心を砕いた。特に、患者の人生最期の希望をかなえるために、男性のチームは家族と思い出を作ってきた。ところが、男性看護師が48歳で肺転移のある膵臓(すいぞう)がんと診断された。

 男性看護師は約200人の患者が死を目前としたときの揺れ動く気持ちに寄り添ってきた。だが、自分の死期が近づいていることを知ってからは考えを転換させる。死を拒否していくのだ。そして、男性看護師は最後の仕事として「患者の視点から在宅医療を語る本をつくりたい」と著者に共同作業を持ちかける。

 本書は男性看護師の希望を見事に具現化した。著者は家族を巻き込む在宅医療に心理面で否定的ながらもチームに同行し、そのプロセスを取材する。その道程でチームメンバーと「命の閉じ方」について語り合う。患者、その家族、医療者の場面ごとの心の揺れや小さな喜び、落胆などを見逃さず、小説のような繊細な描写を重ねて、著者は読者に語りかけてくる。

 その声を聴きながら読み手はその世界に没入し、一気に読み進められる。人生の最終段階について、自身と対話の時間を持つことは貴重な機会となる。

 著作が開高健ノンフィクション賞を受賞したり、書店員らが選ぶ書籍年間第1位に選ばれたりした著者の待望の新作。(集英社インターナショナル・1700円+税)

 評・福原麻希(医療ジャーナリスト)

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