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【朝晴れエッセー】2月月間賞 「瓶になった干支」常世ゆかりさん(56)

朝晴れエッセー2月の月間賞選考会に臨む玉岡かおるさん(左)と門井慶喜さん=3月6日午前11時43分、大阪市浪速区の産経新聞本社(薩摩嘉克撮影)
朝晴れエッセー2月の月間賞選考会に臨む玉岡かおるさん(左)と門井慶喜さん=3月6日午前11時43分、大阪市浪速区の産経新聞本社(薩摩嘉克撮影)
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 朝晴れエッセーの2月月間賞に、常世(とこよ)ゆかりさん(56)=長野県南牧(みなみまき)村=の「瓶になった干支」が選ばれた。自宅の台所に現れたひめねずみと行方を追う筆者を描いたユーモアあふれる文章と構成が高く評価された。選考委員は作家の玉岡かおるさんと門井慶喜さん、山田智章・産経新聞大阪文化部長。

 ≪受賞作≫

■瓶になった干支 常世ゆかりさん(56) 長野県南牧村

 近所のログハウスでこんなことがあったそうだ。家人が1週間家を留守にして帰ってくると、壁飾りのドライとうもろこしの粒が全部外されてなくなっていた。粒は戸棚のシュガーポットにぎっしり収められていたという。

 犯人はひめねずみらしい。粒をくわえてせっせと運ぶ小さなねずみを想像すると、絵本の絵みたいで微笑(ほほえ)ましい。

 だが、いざ自宅でひめねずみと遭遇したら、そんな心の余裕など吹っ飛んだ。

 ある夜、台所から何やら紙をちぎるような音がしてきたので怪訝(けげん)に思い、音源をたどって乾物のある棚を覗(のぞ)いた瞬間、1匹のひめねずみが、棚奥から弾丸のように飛び出してきたのだ。向こうもびっくりしたろうが、私は心臓が凍りつく思いがした。

 天井裏でひめねずみの動き回る気配は、それまでもあった。部屋には出ないから寛容でいられたが、こうなると話は別だ。台所にねずみなんて許せないと、焦って行方を捜すと、スパイス棚に目がとまった。

 ガラムマサラとクミンの瓶の間から、灰色の細紐がひょろりと垂れている。目をこらすと、いかにも、「わたしも瓶です」というふうに、ねずみが瓶よろしくじっとしていた。おかしさがこみ上げてきて、一気に戦う気が失(う)せた。逃亡用にと、近くの窓をそっと開け放ち、私は台所を後にした。

 その後、建物全体にひめねずみ侵入対策を講じたので、もうあんなことはないだろう。あっては困る。なのに、子年を迎えたら、さびしいような懐かしいような気持ちで思い出すのだ。

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