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【ビブリオエッセー】わが「イサムリズム」の旅 「吉井勇全歌集」吉井勇(中公文庫)

 確か小学校卒業の年だったと思う。ヘレン・ケラー女史の来日を記念し、本にはさむ「しおり」がクラスのみんなに配られた。そこには「ヘレンケラー女史をたたへて」の詞書とともに、一首の短歌が記されていた。

 「うつくしき君が魂たたへましまことこの世を照らす光と 勇」。吉井勇という歌人のペン書き直筆を、印刷した短歌であった。少年の私は何度も口ずさみ、日本の言葉をつなぎ合わせると思いを伝える素晴らしいフレーズになることを知った。

 その後も吉井勇の名が記憶に残ったが、中学、高校の教科書には啄木や白秋、晶子、牧水の名はあっても、勇はなかった。そこで短歌の本を調べ、勇の処女歌集『酒ほがひ』にたどり着く。おそらく当時の若者にとって、石原慎太郎の『太陽の季節』や寺山修司の歌集と同じように衝撃のデビューだったのではないか。それからも勇に熱中した。短歌や戯曲とマルチに活躍した文人で、祇園の「かにかくに」の歌碑も「ゴンドラの唄」の作詞も勇だ。

 この全歌集には二十五冊の歌集から自選の二千四百首あまりが収録されている。決して難解ではなく、平明で直情的。類型歌も多いが、独特の「イサムリズム」といったものがあり愛誦しやすい。

 好きな歌はいくつもあって迷うがまず「君にちかふ阿蘇の煙の絶ゆるとも萬葉集の歌ほろぶとも」を選ぶ。

 私は勇の歌碑を求めて全国を回った。独特の文字のゆたかさ、たおやかさ、なめらかさもたまらない魅力だ。もちろん品位と格調の高さ。並べ出したら字数も尽きた。

 京都府京田辺市 古川章83

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