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【書評】『できない相談』森絵都著

 ■個性を守るけなげな闘い

 日常生活の中、ささいなことでイラッとしたりムカッとしたりすることは誰しもあるだろう。たいていの場合、それをのみ込んでやりすごす。しかし、中にはこれだけはどうしてもがまんできないってことがある。直木賞作家、森絵都の『できない相談』はそんな小さな抵抗の数々を明るくユーモラスに描いた38編からなる掌編集だ。

 一編が約6ページと短く、空いた時間でサクッと読める。あるあるとうなずいたり、シニカルな視線にハッとしたり、思わず自分を省みたり、38通りの味付けが楽しめる。

 絶妙のオチにふきだすのが「時が流してくれないもの」「破局の理由は……」。主人公には許せないことが、多くの人にはそこまで気にしなくても、と思うようなことで、そのギャップが面白い。小さなことにこだわる人間味にあきれつつも、どこかホッとしたりもする。

 「2LDKの攻防」「電球を替えるのはあなた」は、家事分担についての夫婦の意地の張り合いが切り口だ。共働きの夫婦の一場面がありありと目に浮かび、今更ながら森絵都の観察眼の鋭さに感心させられる。ただ、相手を責めたり追い込んだりはしない。作品の根底にお互いさまだと許容する優しさが流れていて、読後感がいいのだ。

 膝を打つ思いで読んだのは「サービスの落とし穴」。パソコンやスマホのサポートが使いこなせない思いをユーモラスに訴えてくれている。最後の一行の切れ味のよさが抜群で、スカッとするだろう。「おもてなし料理のあと」では、大人のだしに使われてうんざりしている子供が出てくる。子供だからとあなどってはいけない。大人の茶番など見抜かれているのだ。

 この掌編集で、できない相談をかかえているのは弱い立場の人間が多い。日々複雑で煩雑になっていく社会の中、埋没しそうな個性を守ろうとがんばっている人々。つまり、できない相談は人間らしさを守る最後のとりでみたいなもの。そう思うと数々のこだわりが、とてもいじらしく愛しく思えてくる。

 読み終わると自分のこだわりは何かと考えたくなる。何もないと思った人は要注意かも。知らず知らずのうちに、ロボット化しているのかもしれない。(筑摩書房・1600円+税)

 評・赤羽じゅんこ(童話作家)

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