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【書評】『ことばの教育を問いなおす 国語・英語の現在と未来』 人生最大の武器を磨く

 本書の出発点は、日本の国語教育者、大村はまである。大村は、ことばの意味と表現者の気持ちをとことん吟味し、「このことばでいいか」と推敲(すいこう)を重ね、一番適切な表現にたどり着くように指導した。「ことばは錐(きり)のようなものだ」と言い、現実に食い込み、ものごとを鮮明に浮かび上がらせる教え方が特徴。生徒の一人は大村教育から得たものを、コンピューターのオペレーション・システム(OS)にたとえている。

 大村教室で育った苅谷夏子氏は、数々の比喩をもって現実を鮮やかに言語化し、そのOSの賜物(たまもの)を証している。無意識的に習得した母語を安易に使いがちなことを「省エネ」モードとたとえ、ことばを豊かに、適切に使うことができなければ、物事を深く考えることはできないと指摘する。

 英語教育者の鳥飼玖美子氏は外国語力を「日常会話力」と、抽象的な事柄を理解・分析する「学習言語能力」の2種に分類し、後者は母語の学習言語能力によって培われるので、「省エネ」の母語話者なら、外国語力も日常会話にとどまり、ポケトークでも用が足せるといみじくも言い切る。日本語力と英語力との基礎が地続きであることを新たに意識させてくれる。

 社会学研究者の苅谷剛彦氏は、ことばの技能で、書くことがもっとも難しいとして、海外の大学で「読み、書き、論じる」の訓練を通し、学生の批判的思考力を鍛える実践を紹介。氏自身は日本語と英語のどちらにも属さない「中間地帯」の思考力を磨き、それをどの言語にも応用し、両方のレベルを上げることができたと実感している。まさに、思考力によって「ことばの力」が高められる。

 著者たちは、大学入試に導入検討中の英語民間試験は皮相的な会話力を場当たり的な方法でしか測定できず、国語記述式問題は成績確保のための保守的・従属的な回答しか期待できないと指摘し、ことばの教育の根本にある思考力育成の放棄という問題に注目させてくれる。

 本書は、ことばを人生最大の武器として、それをぞんざいにすれば、一生涯の大損だと教えてくれる。人生に役立つ母語と外国語を身につけようと努力する人には示唆に富む一冊である。(鳥飼玖美子、苅谷夏子、苅谷剛彦著/ちくま新書・840円+税)

 評・郭南燕(東京大学特任教授)

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