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【書評】『東京、はじまる』門井慶喜著 熱き時代生きた名建築家

『東京、はじまる』門井慶喜著
『東京、はじまる』門井慶喜著

 東京駅駅舎や日本銀行本店を設計した日本を代表する建築家、辰野金吾(たつの・きんご)の破天荒な生涯を描いた評伝小説である。

 明治維新を成し遂げ、近代国家として歩み始めた日本。できたばかりの工部大学校(現・東京大学工学部)の第1期卒業生となった辰野は首席の特権でイギリスへの留学生となる。帰国後、母校の後身、帝国大学工科大学教授となった辰野は、野望を抱いていた。日本人の手で「東京」と名を変えた首都の街づくりを行うことである。

 最初のチャンスが、明治15年に開業した日本銀行の本店新築工事だった。ところがその仕事はすでに辰野の恩師である、お雇い外国人のコンドルに内定済み。どうしても日銀をやりたい辰野は、コンドルが手掛けた鹿鳴館(ろくめいかん)へ乗り込み、時の首相、伊藤博文に直談判。ギャラが「高すぎる」「凡百」などと、なりふり構わずコンドルの悪口を並べたてて、横取りに近いやり方で日銀の仕事を奪う。

 辰野は、もし最初の中央銀行の仕事を外国人に取られたら、国会議事堂も総理官邸も中央停車場(後の東京駅)も「日本人がやることはできなくなる」という強い危機感に駆り立てられていた。

 辰野の人間性の描き方が興味深い。下級武士の家出身というコンプレックス。野心的で上昇志向が強く「オレがオレが」と前に出たがるタイプながら不思議に嫌われることがない。

 中央停車場のときも、先に情報を入手したのは同級生のライバル(日本人)だったのに結局、辰野が手掛けることに。圧倒的な実力は、恩師やライバルからも認められていたのだろう。

 辰野の仕事は、かつて日本が統治した韓国・ソウルにも残っている。旧朝鮮銀行本店。堅固かつ荘厳なデザインの建物は、現在も壊れず、また、韓国人によって“壊されること”もなかった。やはり、日本が経営に深く関わった満州(現・中国東北部)や租借地だった関東州(同)にも、辰野の後輩である、東京帝大建築科出身者が手掛けた名建築が多い。

 国も人も「若く、熱かった」時代。高い志とほとばしる情熱で近代国家の形が作り上げられてゆく。“安定志向”のイマドキの若者に読ませたい。(文芸春秋・1800円+税)

 評・喜多由浩(文化部編集委員)

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