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【本ナビ+1】「存在の根源」に関わる問題 文芸評論家・富岡幸一郎

『国語教育 混迷する改革』紅野謙介著
『国語教育 混迷する改革』紅野謙介著
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『国語教育 混迷する改革』紅野謙介著(ちくま新書・880円+税)

 この30年余り、日本社会は「改革」というマジック・ワード(魔語)に踊らされ、長く続いてきた社会の基盤や制度が、内と外からの暴力的といっていい圧力によって破壊された。“抜本的”な改革という奇妙な言葉。本を抜いてしまう? 根っこを取ったらいい? 確かにマンネリ化や硬直化は改められるべきであり、組織の安定と持続のために必要な改革はなすべきだろう。しかし、である。

 筆者も大学の教員として、大学改革、教育改革という事態に若干関わってきた。学長とか副学長その他の役職に就くと、その人の口から「改革」のコトバが出ない日はない。大学の旧態依然の組織改革は大いによし。しかし教育の内実に関しては慎重であるべきだ。まして中学・高校の教育、とりわけ国語は十分に議論されなければならない。

 本書は日本近代文学の専門家で、メディア環境や国語教育の現場にも通暁する著者が、今回の大学入学共通テスト、新学習指導要領を徹底検証した一冊である。

 大学入試の改革で、高校の国語から「文学」が消えるというセンセーショナルな話題がすでに伝えられている。「論理国語」と「文学国語」に分け、前者は実社会で役立つ読み・書きの能力を養うという。しかし、具体的な(本書で詳細に分析される)「指導計画」は、まさに絵に描いた餅であり、混乱は必至である。「文学国語」も同じで、実際には生徒がとても「食えない餅」だ。本書を読んでいくと唖然(あぜん)・呆然(ぼうぜん)の連続である。

 《この改革は単に大学入試の改革、高等学校のカリキュラムの改革ではありません。それらを入り口にした私たちの存在の根源に関わる改革なのです》と著者は警鐘を鳴らす。国語とは、言葉とは、まさに人間の「存在の根源」に関わるからである。

 □『増補 日本語が亡びるとき』水村美苗著(ちくま文庫・880円+税)

 文部科学省などの「国語」改革を断行せんとする人士にぜひ一読いただきたい名著。グローバルな英語の世紀のなかで、このまま行けば日本語は亡びる。12歳で渡米し、プリンストン大学で日本近代文学を教えてきた作家による“救国”の書である。漱石や鴎外らの近代文学によって「国語」が確立し近代日本国家は成立した。国語教育こそ、国の大本であることを改めて認識したい。

【プロフィル】富岡幸一郎

 とみおか・こういちろう 昭和32年、東京生まれ。中央大学仏文科卒。『群像』新人文学賞評論優秀作。関東学院大学教授、鎌倉文学館館長。著書に『内村鑑三』他。

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