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囲碁トップ棋士・依田紀基九段はなぜ処分されたのか 背景に理事選、大会スポンサー撤退

対局停止6カ月の処分を下された依田紀基九段(右)は日本棋院の大淵盛人常務理事(左)らに説明を求めた=13日、同棋院(東京都千代田区)
対局停止6カ月の処分を下された依田紀基九段(右)は日本棋院の大淵盛人常務理事(左)らに説明を求めた=13日、同棋院(東京都千代田区)

 タイトル獲得36期という歴代8位の実績をもつ囲碁棋士、依田紀基(よだ・のりもと)九段(53)が12日、所属する公益財団法人日本棋院(東京都千代田区)から、対局停止6カ月という重い処分を下された。ツイッターなどで棋院執行部に対する不適切な発信を繰り返したことが棋士規定に違反するとされたが、依田九段は反論し法的措置も辞さない構えだ。なぜトップ棋士は処分されたのか。棋院や依田九段らの説明をたどると、双方の間に根深い確執が浮かび上がる-。

(文化部 伊藤洋一)

発端は棋院理事選

 処分が出た翌13日、日本棋院は緊張感に包まれていた。タイトル戦である天元戦1回戦に出場するため登院した依田九段の前に棋院の大淵盛人常務理事が立ちはだかり、入室を拒んだのだ。「処分にいたる具体的な理由を聞かせてほしい」。こう口にする依田九段に、大淵常務理事は「常務会での決定事項を伝えるのが役割」などと押し問答が続いた。最終的に処分通知書を受け取った依田九段は「日本棋院がこういうふうになって悲しい。何の具体的な説明もしないんだから…」と話し、棋院を後にした。

 今回の処分の引き金となったツイッターによる執行部批判とはどのような内容だったのか。その矛先は棋院トップの小林覚理事長らに向けられ、昨年6月14日に始まる。

 <コンプライアンス上も全然ダメ><情報が閉鎖的。嘘もつくし事実も歪める>…。

 依田九段はなぜ、こうした激しい内容を投稿したのか。きっかけは平成30年5月に実施された棋院理事選だったとされる。依田九段の妻である常務理事(当時)の原幸子四段(49)が再選を果たしたが、立候補後に他の候補者を中傷する内容のメールを、有権者である約30人の棋士に送信していた疑惑が浮上。棋院は常務理事としてふさわしくない行動と判断し、原四段は昨年6月4日に常務理事の職を解かれた。この結論に異を唱えた依田九段は14日からツイッターで、執行部などへの批判・中傷を展開したとされる。

スポンサー撤退

 これに対し棋院は、依田九段に対し「憶測に基づく発言は慎むように」と警告。ツイッター上の批判投稿は同26日になって削除されたが、火種が消えることはなかった。

 その舞台は6月29日に開催された「第9回マスターズカップ」準決勝だった。実はこの直前に、協賛するフマキラーの大下(おおしも)俊明会長が同カップに出場する依田九段のツイッターの内容を知り、これまで通りの協賛はできない旨を棋院側に伝えたという。

 28日夕、前夜祭を前に広島市内のホテル一室に依田九段と小林理事長、大下会長らが集まり対応を協議した。その場の様子について、依田九段は報道陣に対し「小林理事長から『依田は対局すべきではない』『優勝者にさせるわけにはいかない』と言われ、準決勝対局の不戦敗を申し渡された。前夜祭への出席も許されなかった」と説明。一方の小林理事長も「対局する資格がないとは申し上げた」と認めるが、「出る、出ないを最終的に判断するのは依田さんだ、とも伝えた」と双方の主張はやや食い違う。

 結局、依田九段は29日朝、同カップに出ることなく帰京。対局相手の不戦勝と発表された。

 収まらない依田九段は7月4日から約2週間、今度は棋士が閲覧できるメーリングリストで不満をぶちまけた。<マスターズカップがなくなる責任を取らせるというなら、依田のツイッターのせいで棋戦をやめるという会社の正式な発表がないとできないはず>

 参加資格の変更などで大会継続を模索していた大下会長は、この発言を知り協賛の終了を決断。7月20日、棋院東京本院であった同カップ決勝戦の表彰式で、小林理事長は同年限りでの大会終了を告げた。

 フマキラーはマスターズカップ終了について「対局ができなくなり、運営上看過できない状況になったため」と説明している。

「イメージよくない」

 依田九段の一連の言動について、棋院は常務理事らによる罰則委員会を8月1日に開き、依田九段の弁明を聞くなど計5回の会合を重ねた。棋院執行部の名誉を毀損したほか、棋戦継続を断念させるきっかけをつくり、金銭的な実害を与えたことも考慮され、今年2月12日、常務理事会で「除名」に次ぐ2番目に重い「6カ月の対局停止」が決まった。

 一方、依田九段は同日、「到底承服しかねます。処分通知が届き次第精査の上、法的措置も含めた対応を検討してまいります」などとコメントした。

 確執は法廷に移される可能性もあるが、棋士の間では、「仲邑菫初段や芝野虎丸二冠の活躍で、やっと藤井聡太七段で話題の将棋界に追いつけるかと思っていたのに、内輪モメみたいでイメージがよくない」といった声も漏れる。棋院と依田九段の判断は今後も注目を浴びそうだ。

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