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【書評】『自己免疫疾患の謎』 手に汗握る研究の行く末

 自己免疫疾患とは、本来なら自分の体を細菌などから守ってくれるはずの免疫機構が、矛先を変えて自分に向かってくる病気だ。リウマチもその一つだが、著者の医師、アニータを出産後に発症した母親は、ほぼ寝たきりとなりアニータが13歳のときに51歳で亡くなる。

 なぜ母親は病気になり、効果的な治療法もなく、苦しみの中亡くならなければいけなかったのか-。本書は、母の死をきっかけに医師になることを志した少女が、長年見過ごされてきた自己免疫疾患の謎を解き明かすに至った闘いの記録だ。

 リウマチが出産後や更年期の発症が多いことは以前からよく知られ、それなら、性ホルモンと関係があるのではないか。アニータの疑問は妥当なものに思うが、研究を始めるまでホルモンが免疫システムに働きかける方法は分類すらされていなかった。なぜなら、自己免疫疾患にかかる大多数が女性だから。男性主体で成り立つ医学界では、女性の病気の研究はステータスが低く、たとえよい成果が出ても名誉は得られないためだ。

 リウマチはそれが原因ですぐに死ぬ病気ではないが、痛みとの闘いは壮絶だ。20年ほど前、アメリカ在住のリウマチ患者を取材したことがある。リウマチ特有の症状である手のこわばりでシャワーを浴びることもままならない40歳の女性だった。当時出始めた生物製剤を使い始めたところ劇的な効果があり、1人でシャワーを浴びることができたと喜んでいた。

 画期的な治療薬と期待され、今も重要な治療薬であることに変わりはない生物製剤だが、使い続けると効果が薄れ、患者は再びつらい症状に耐えなければいけないことを本書で知った。あの女性は今どうしているだろうか。

 アニータがたどり着いたホルモンに働きかける治療薬も、本当に効果がある薬となるかはまだ分からない。ただ、患者にとって彼女のような研究者がいることこそが希望のようにも思う。

 訳者はあとがきで本書を「一種のミステリーのような雰囲気」と指摘するが、私も著者の研究の行く末を手に汗握りながら読み進めた。わくわくしながら読める稀有(けう)な医学本だ。(アニータ・コース、ヨルゲン・イェルスター著、中村冬美、羽根由訳/青土社・2400円+税)

評・平沢裕子(文化部)

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