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【ビブリオエッセー】悪人のロマンと命のはかなさ 「城をとる話」司馬遼太郎(光文社時代小説文庫)

 『城をとる話』。これほどわかりやすいタイトルは見たことがありません。読んで字のごとく城攻めの話。タイトルを見てまず違和感を覚えました。戦術の決定版『孫子』の兵法には「城攻めは最もナンセンスな戦術である」と書かれています。つまり戦術のタブーを犯す話なのです。

 時代は戦国の世。主人公は車藤左という常陸の牢人で、退屈な生活に嫌気がさし、城攻めに刺激を求めます。ロマンに命を懸ける狂気の男が、勝てるはずのない伊達家の城をとる戦いに挑みます。

 主人公の魅力は実行力とカリスマ性です。人々はそんな藤左に惹かれ、味方になり、さらには喜んで命を懸ける者まで現れます。しかし計画は破綻し、仲間が次々と亡くなるのです。藤左はその死を無駄にせず城をとる目的へと近づきます。私は主人公が英雄のように見えました。

 ところが藤左の側近の一人は「罪深い狂人」と評し、藤左自身も「悪人の仕事」と自嘲気味に繰り返します。部下に強制的に命を差し出させる大将は悪人だ。強制せずとも嬉々として命を差し出す者も多い。だから藤左は本物の悪人なのだ、と。確かに藤左の行動を振り返ると、安易に英雄と評価してよいのか、わからなくなります。

 目的のために手段を選ばない人間。いくつもの命の犠牲の上に一人の男の城攻めというロマンが成立している、と解釈することもできます。

 一読すれば弱い者が勝てるはずのない敵と戦う話です。ただし主人公を「悪人」とみて読み返せば、藤左の冷酷さとともに、命のはかなさが伝わる話ではないでしょうか。

滋賀県近江八幡市 大阪大学法学部4年 小城英暉22

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