PR

ライフ ライフ

【ビブリオエッセー】天下統一への野望と挫折 「夏草の賦」司馬遼太郎(文春文庫)

 自分のやる気をうまく制御できればいいのに、と思うことがある。やる気に満ちている時は、普段なら面倒に感じることでも楽々とこなすことができる。不思議なものだ。この『夏草の賦』では天下統一を目指す主人公が次第にやる気や情熱を失っていくさまが描かれている。

 舞台は戦国時代、主人公は土佐の豪族、長曾我部元親。生まれつき臆病な性格で、幼少時は「姫(ひめ)若(わ)子(こ)」と揶(や)揄(ゆ)されるほどだったが、領主となって武将の才能を開花させる。そして土佐を統一した元親は天下統一を目指すようになる、というのが前半である。

 元親の人間観は独特だ。幼い息子を戦場に連れてゆき、その様子を見て将来が有望か判断しようとする。怖気づいているようでは武将として先行きが不安だ、と評価するわけではない。むしろ息子が戦いを恐れる様子を見せれば有望だと考えるのである。それは元親が「臆病者こそ智者の証拠であり、臆病こそ智恵のもとである」という信念を持っているからだ。

 臆病さを自覚しながらも、それを克服するためあらゆる状況を想定して万全の準備をする。この万全の準備こそが元親の持ち味であり、強みであった。彼が成功を重ねているとき、そこには尋常でないほどの根回しがあり、それは天下統一への情熱に裏付けられていたのである。

 しかし物語の後半で語られるのは秀吉に敗北し天下統一への情熱を失った元親の姿である。そこには私たちが日常で陥りかねない無気力の恐怖があり、元親の悲しみが切実に伝わってくるのだ。

京都市西京区 大阪大学経済学部1年 石井天晴20

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ