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【ビブリオエッセー】歴史の“陰に日なた”に女あり 「戦国の女たち 司馬遼太郎・傑作短篇選」司馬遼太郎(PHP文芸文庫)

 男とは馬鹿な生き物である。愛する人のためならば、多少の無理は厭わない。魔性の女とはよく言ったもので、どんな勇猛な武士も骨抜きにされる。この短篇集『戦国の女たち』に収録の「女は遊べ物語」の登場人物、伊藤七蔵政国もそんな馬鹿な男の一人である。

 彼の妻、小梅もまた魔性の女であった。彼女はとにかく浪費家なのだ。七蔵の給料はすべて彼女のために消えてしまう。でも七蔵は彼女を喜ばせるため自分の命も顧みず、戦場で次々と武勲を立ててゆく。そして彼は主君である信長に加増をねだるのである。いつしか七蔵は、仲間から「物乞い七蔵」と呼ばれるようになり、疎まれる存在となっていた。そんな七蔵に目を付けたのが秀吉で…。

 歴史の“陰に日なたに”女あり。異例の出世を遂げ、豊臣政権を陰で操った北ノ政所、夫の異常な嫉妬にさらされながらもキリシタンとして壮絶な最期を遂げた細川伽羅奢(ガラシヤ)、誰もが憧れるような勇将、渡辺勘兵衛に密かに思いを寄せる人妻、由紀。この本は、そんな戦乱に生きた女性たちの目を通して時代を描いた短篇集となっている。

 主君との約束が反故にされたことにより由紀とも離れることになった勘兵衛のセリフが印象的である。「生涯で一度、愛(かな)しいと思うおなごがいた。しかしそれが人の内儀ではどうもならぬわ」。

 決して一線を越えなかった二人の、切ないながらもどこか歌舞伎を見ているような作品だ。女性を主人公とした短篇集だからこそ味わえるものがあるのではないだろうか。

大阪府枚方市 大阪大学文学部3年 今坂朋彦 21

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