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【痛みを知る】たばこは慢性痛を強くする 森本昌宏

 慢性痛を抱えている場合に日常生活で気をつけるべきポイント、について紹介する。今回は、たばこ、睡眠、運動を取り上げる。

■一酸化炭素が酸素を奪い、ニコチンが血管を収縮

 たばこに関しては、『健康増進法』が施行され、さらには受動喫煙が健康を害するとの議論が喧(やかま)しく行われて以来、愛煙家はますます肩身の狭い思いをされているものと同情を禁じ得ない。しかし、慢性痛に悩んでいる方、たばこはいけません。喫煙によって生じる一酸化炭素が組織から酸素を奪い、たばこに含まれるニコチンが血管を収縮させて、痛みを増強するのである。たばこは、こと痛みに関してはひとつも良いことはしないのだ。

 少し脱線するが、たばこに関するウンチクである。タバコの葉の学名である「ニコチアナタバクム」の“ニコ”は、16世紀半ばにポルトガルに駐在していたフランス大使ジャン・ニコの名前に由来する。そのニコがフランスにたばこを持ち込み、当時の皇太后、カトリーヌ・ド・メディシスはたばこを頭痛の治療薬(効くかなあ?)として重宝していたとする逸話がある。その他、大航海時代のヨーロッパの各国では、たばこを消毒薬や下剤として用いたとの記録が残されている。

 芥川龍之介の『煙草(たばこ)と悪魔』では、フランシスコ・ザビエルの従者に化けてわが国に渡ってきた悪魔が、タバコの栽培を始め、その草に興味を持った農夫を「煙草の名前を当てないと魂を奪うぞ」と脅すくだりがある。芥川は、たばこをわが国に広めたのは悪魔の計画ではないかと疑っていたのである。この芥川は、片時もたばこを離すことができないヘビースモーカーであった。

■睡眠は痛みの原因知るバロメーター

 睡眠に関しては、強い痛みのために「寝つきが悪い」、または「夜中に頻回に目が覚める」とされる方が多い。睡眠は脳の毛様体賦活系の活動低下によってもたらされるが、痛みがあるとその部位が絶えず刺激を受けて、眠ることができなくなるのだ。一方で、精神的な理由によって痛みを訴えられる「心因性疼痛(とうつう)」の患者さんでは、痛みのために目が覚めることはない。したがって、睡眠は痛みの原因を判別できるバロメーターとも言える。強い痛みがある場合には、適量の睡眠薬を服用してぐっすりと眠るべきである。

 さて、マラソン中継などで“ランナーズハイ”との言葉をよく耳にするが、これは一種の陶酔状態を指し、体内でモルヒネ様物質が分泌されることで起こる。慢性痛に悩んでおられる方にマラソンを勧めるわけではないが、15分間のジョギングで痛覚域値が約30%上昇することが実験的に確認されていることからは、適度の運動も必要である。

 慢性痛に悩まされている方は「酒はほどほどに、禁煙厳守、ゆっくりと湯舟に浸(つ)かって、ぐっすりと眠り、適度な運動を心掛ける」こと、との結論になる。痛みとの付き合い方は難しいのだ。

    ◇

 【略歴】森本昌宏(もりもと・まさひろ) 大阪なんばクリニック本部長。平成元年、大阪医科大学大学院修了。同大講師などを経て、22年から近畿大学医学部麻酔科教授。31年4月から現職。医学博士。日本ペインクリニック学会名誉会員。 

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