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【痛みを知る】酒は呑め呑め適量で 森本昌宏

 慢性痛を訴えて私の外来を受診された患者さんから、「そうそう、日常生活で気をつけるべきポイントって何かありますか?」と聞かれることが多い。慢性痛と一言でいっても多種多様、たとえば頭痛と腰痛とでは注意すべき点は自ずと異なる。そこで、今回と次回は、日常生活での一般的な事柄について紹介しておこう。

■百薬の長

 なかでも多く聞かれるのが、酒が痛みにどう影響するのかについてである。決まって帰り際に「センセ~、酒、飲んでもええかな? “百薬の長”なんでしょ」とくる。なるほど飲むのね、聞きにくかったのね、である。酒には特定の病気に対する予防効果がある、との記事をよく目にするが、百薬の長としての側面をもつことは事実である。酒は痛みに対しても有効に作用する。飲酒によって血液の流れが良くなり、組織への酸素の供給が増える。さらには、痛みの原因となっている発痛物質を洗い流してくれるのである。事実、酒によって痛覚域値(ある刺激を痛みとして感じ始める強さ)が約30%上昇するとのデータが示されている。

■肘から先、吹き飛ばされても気づかず

 この点に関しては恐ろしいエピソードがある。ある男性が大酒を飲んで、阪神高速を猛スピードで飛ばしていたところ、接触事故を起こした。右肘を窓から突き出していたために肘から先を吹き飛ばされたが、しばらくはその痛みに気付かずに左手一本での運転を続けたのである。腕をなくしてしまったことは悲劇ではあるが、飲酒運転の上でのことであれば同情の余地はない。

 慢性痛の話題からは少し外れるが、1979年に酒の効用についての画期的なデータが発表された。赤ワインに心臓病の予防効果があると言うのである。フランスではイギリスと比べて飽和脂肪酸(肉類に多く含まれ、悪玉コレステロールや中性脂肪を増やし、動脈硬化を引き起こす物質)の摂取量が多いにもかかわらず、心臓発作で亡くなる方が少ない。理由はブドウの皮に含まれるポリフェノールが、血小板(血液を固める成分)の凝集能(固まる力)を低下させて心筋梗塞を起こし難くするのである、これを“フレンチパラドックス”と呼ぶ。左党のみなさんは「わが意を得たり」といったところであろう。

■過ぎたるは及ばざるが如し

 しかし、である。炎症がある場合には、酒によって炎症が増強されて痛みは強くなる。また、飲酒後には、反動で血管が収縮して痛みを増すことだってあるのだ。過ぎたるは及ばざるが如し、飲み過ぎはいけません、適量を守りましょう。

 次に、入浴はどうだろうか? 湯舟に浸(つ)かると、血の流れが改善されて組織の代謝が促進し、筋肉が弛緩(しかん)して痛みが和らぐ。さらには自律神経が安定することで、痛みが軽くなる。たとえば「帯状疱疹(ほうしん)後神経痛」に悩んでおられる方の多くは、お風呂を好まれるはずである。温泉はいいよな~。もちろん飲酒後の入浴はいけません。

 【略歴】森本昌宏(もりもと・まさひろ) 大阪なんばクリニック本部長。平成元年、大阪医科大学大学院修了。同大講師などを経て、22年から近畿大学医学部麻酔科教授。31年4月から現職。医学博士。日本ペインクリニック学会名誉会員。

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