PR

ライフ ライフ

【書評】『行列のできる児童相談所 子ども虐待を人任せにしない社会と行動のために』井上景著 「知る」が「守る」の第一歩

『行列のできる児童相談所』井上景著
『行列のできる児童相談所』井上景著

 児童虐待のニュースを聞くのは本当に辛(つら)い。こんなにも辛いのは「子供に何もできなかった自分」と「何か行動したくても、自分一人の力では何も変えられない」という絶望感がセットだからかもしれない。私もそれが原因で随分と目をそらしてきたが、最近は「見て見ぬふりをするほうが辛い」と気がつき、向き合うことを決心、取材や読書を重ねるようになった。

 本書は数年前まで児童相談所(児相)に勤めていた著者が、その実態を詳しく書いている。

 私たちにできること、それはまず「知ること」だ。知れば何が問題で、何を変えるべきかが見えてくる。そしてそれは、選挙の投票や、SNSでの情報発信やシェア、寄付をしたりする行動につながっていく。

 児童虐待や児相に関する情報は、一般に知られていないことも多い。例えば、通報された後の児相の動き。多くの人は異変を感じても「思い過ごしであの家族をバラバラにさせてしまったらどうしよう」と躊躇(ちゅうちょ)してしまうが、通報後にどんな手順で対処されるのかを知れば、「子供を守るため」に通報できる。

 他にも、児相員の人手不足は認知されてきたが、ただ人を増やすだけでは質の低下を招き、現場に混乱が生じること。そのためにも司法機関のような養成方法など質を高める施策が急務であること。里親制度の重要性。里親を増やすにあたりどのような課題があり、どのようにケアすべきかということ。単純比較はできないが、日本の名目GDPに占める児童虐待防止予算の割合は、米国の100分の1ほどという説もあること…。

 実態を知らないと、「子供を守りたい」という気持ちは同じでも、その思いが明後日(あさって)の方向に使われることもある。その一つが虐待のニュースがあると必ず起こる児相バッシング。そうなると児相にクレーム電話が相次ぎ、ただでさえ人手不足なのに、子供を守るための時間がクレーム処理にとられてしまう。

 もう悲しい思いをする子供を見たくない、そう思う方はぜひ本書を読んでほしい。何をしても無駄だという絶望から抜け出せるはずだ。私たちが動けばこの状況を変えられる-そして子供を守り育てるのは、全ての大人の責任だと思うのだ。(北大路書房・2300円+税)

 評・犬山紙子(エッセイスト)

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ