PR

ライフ ライフ

【文芸時評】2月号 早稲田大学教授・石原千秋 言葉は人を傷つけ、癒やす

 世田谷パブリックシアターでは、ファンになっている前川知大作・演出の「終わりのない」を観た。いつもの不気味さがまったくなく、〈ギリシア神話「オデュッセイア」を下敷きにして、いまはやりの量子物理学と複数世界を素材にすれば誰が作ってもこうなるでしょ〉というレベルで、がっかりした。特に山田裕貴は顔の両側の髪をかき上げるのが癖になっているようで、数十回現実に引き戻された。失敗作だ。前川知大の芝居は大きな劇場向きではなく、あくまで小劇場向きだ。

 「新潮」は特集「あいちトリエンナーレ・その後」を組んでいる。抗議や嫌がらせや脅しでいったんは中止に追い込まれた展示会「表現の不自由展・その後」である。文化庁は事後的に、一度採択された補助金の交付をとりやめにする暴挙にでた。しかし、特集に寄せられた文章にはほとんど感心しなかった。こういう「事件」が起きると文化はいつも被害者面をする。文化ほど人を抑圧するものはないのに。さすがにそれほどナイーブな文章はあまりなかったが、文化の抑圧面が、「言葉」のように芸術という形になったとき、社会は自己治癒することがわかっている文章はなかった。

関連トピックス

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ