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【ビブリオエッセー】被爆と台風、二重の苦難の中で 「空白の天気図」柳田邦男(文春文庫)

 昨年末に親戚のAさんが97歳で亡くなった。80歳まで開業医を続けた女医で、リタイア後は夫君の墓参でたびたびお会いした。その折に聞いて心に残ったのは、昭和20年の広島への原爆投下の後、治療と調査のため広島へ入り、9月に大きな台風(枕崎台風)に見舞われ大変だったという話だ。Aさんの長女にその話をすると、実はこれに関する本があるんですよ、とさっそく送ってくださった。

 原爆投下の翌月に列島を襲った台風が広島で2千人を超える死者、千人を超える負傷者を出す大惨事になっていたことを初めて知った。この本には、原爆投下直後から自らも被爆しながら観測・調査を続けた広島地方気象台の職員たちと、広島での治療や研究に携わった京都大学の医師ら医療関係者たちの姿、そして台風による遭難が詳しく書かれている。

 当時、気象台は爆心地から3・7キロ離れた江波山上にあり、爆風でガラスは割れて機器も壊れ、けが人が続出。そんな事態にも沈着に気象観測はもちろん黒い雨の分布やその影響などを限られた設備と人員で調べた職員たち。

 医師や研究者たちも放射能の人体に与える影響をほぼ知っていながら参加した。台風が直撃した9月17日も大野浦の病院に収容された被爆者の治療と調査にあたっていて、大雨による土砂災害で建物ごと押し流された。大勢の患者や医師が亡くなり、Aさんも大けがをした。

 膨大な資料の収集、分析と聞き取り調査の上で書かれたこの本は感傷を交えず悲憤を抑えて書かれている。大きな感動を受けた。

 大阪市港区 マキコ 77

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

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