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【書評】山口桂著「美意識の値段」 人を魅了してやまないオークションの世界描写

巨額マネーが動くオークションの知られざる世界をつづった「美意識の値段」
巨額マネーが動くオークションの知られざる世界をつづった「美意識の値段」

 有名な画家の作品や歴史的人物の愛用品などがオークションにかけられ、ときには熱狂のうちに何十億円、何百億円という値で売買されることもある。人を魅了してやまないオークションを主催するクリスティーズの日本法人社長が、豊富な経験に基づいてアートについての知見を書いた。

 日本美術が専門の著者は、その価値を認めるコレクターは世界中に存在し、欧米の美術館にあるような一級品と比べても見劣りしないと指摘する。ただ、ニューヨークやロンドンで勤務した経験から、日本人のアートに接する姿勢には不満があるという。いわく、欧米人は大金持ちに限らず普通の人でも美術品を買い、身近に置いて日々楽しむが、日本人はそれをしない-と。

 本書では、美術品の売買がどのように行われているか、分かりやすく解説している。オークションは、「オークショニア」と呼ばれる人が仕切る。この人が、いかに人心を引き付けるかに成否がかかってくる。そのため、著者がトレーニングを受けた際の講師は、何と俳優だったのだという。

 美術品といえばその真贋(しんがん)の問題がつきまとうが、スペシャリストであっても、まれに見誤ることがある。高額の品物を扱うだけに緊張が強いられる難しい世界であることが垣間見える。肉筆浮世絵の大規模な偽造が行われた「春峯庵(しゅんぽうあん)事件」など、過去の偽造事件の数々を紹介している。

 美術品というと高くて手が出せないイメージがあるが、クリスティーズで扱うものでも、1点400ドル(約4万4000円)ほどで買えるものもあり、そうしたものを買うのは意義のあることだと主張する。何よりアートはそれ自体を楽しむもので、結果として「その人自身の感性や美意識が磨かれる」という見解には説得力がある。

 著者が経験したエピソードの数々が抜群に面白い。落札者の依頼でニューヨークからソウルまで大きな壺を運んだ際には、高額ゆえに飛行機の客室に持ち込み、座席にくくりつけた。その際、ソウルの空港が濃霧で着陸できず別の飛行場に着陸したそうだが、読んでいて同情するとともに、こうしたハプニングを経験すれば度胸もつくだろうなと納得した。

 浮世絵の研究者を父に持つ著者の幼少期の話もかなり特殊だ。茶道を習わされたり、能を鑑賞させられたり。さらに、いつも「三代将軍実朝を暗殺したのは誰だ?」といったような問題を出されていて、筆者は後にこの状態を「日本美術史家養成ギプス」と笑われたのだという。

 画家のモディリアニを描いた名作映画「モンパルナスの灯」では、モディリアニの死後に人をだまして絵を買いあさる腹黒い画商が印象的だった。そんなこともあって、アートの商取引の世界には少々うさん臭さを感じていたが、美術品は人間にとっての「必需品」と言い切る著者の力強い主張に触れて、考えを改める必要があるのかなと感じた。   (文化部 櫛田寿宏)

     

 やまぐち・かつら 昭和38年、東京都生まれ。立教大文学部卒。京都造形芸術大学客員教授。

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