PR

ライフ ライフ

【ビブリオエッセー】哀しくもたくましい女性たち 「希望の糸」東野圭吾(講談社)

 毎日の晩酌を週二日に控えてから夜が長くなった。その時間を長らく遠ざかっていた読書に充てようと、昨年来の話題の本を数冊購入。そのうちの一冊がこの本だった。

 ひとつの事件を媒介に家族をつなぐ見えない糸をめぐる物語だ。高度不妊治療の末、子供を持つことができなかったほろ苦い私の思い出と登場人物の思いが読み進めるうちに重なっていく。

 お腹(なか)の大きな女性を見て心に広がる思いは、不妊治療の経験がある女性によって様々だと思う。果たせなかったから幸せそうな妊婦姿を見るのは辛い人。自分には叶えられなかったけれど丈夫な赤ちゃんの誕生を願う人…。そんな女性の複雑な心境を東野圭吾の筆は巧みに表現していて、涙なしには読めない。

 自然妊娠で出産まで至ると知ることのできない生命の誕生の神秘を、体外受精の治療過程ではこの目で確認することができる。卵を育てて採卵、受精、細胞分裂、移植、着床。その過程での一喜一憂が脳裏によみがえる。

 妊娠、流産を繰り返した私は、それが本の中の物語であっても、その母体だったからこそ誕生した奇跡に心から拍手を送り、その子供にはどんなことをしてでもあなたをこの手で抱きしめたかった親の気持ちを分かってほしいと、願わずにはいられない。

 望まれない妊娠を重ね心に重い十字架を背負う女性と、医療技術の力を借りてでも妊娠、出産を望む女性の姿は哀しくてたくましい。

 赤い糸を手繰っても巡り合えなかった私の母性本能が、チクチクと刺激される。

 大阪府東大阪市 明日 50

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ