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【編集者のおすすめ】『「悟り体験」を読む 大乗仏教で覚醒した人々』大竹晋著

 ■思わず座禅を組みたくなる

 悟ると人はどうなるのか。本書は、臨済宗から日蓮宗まで約50人の悟り体験記を読み解いた「悟り学」入門です。

 本書には、まさに「目くるめく境地」とも言うべき覚醒体験が次々と登場します。白隠慧鶴(えかく)は歓喜のあまり絶叫し、関精拙は一晩中踊り回る。朝比奈宗源は「体が爆発して飛んでしまった」と証言し、平塚らいてうは一日中歩き回っても疲れない無尽の体力を手に入れます。著者はそれらの悟り体験を、自他忘失体験、真如顕現体験、自我解消体験、基層転換体験、叡智(えいち)獲得体験の五段階に分け、悟りの実相に迫ってゆきます。

 一方で、著者は悟り体験を無条件に礼賛してはいません。たとえば、昭和7年にテロリズム「血盟団事件」を起こした井上日召も悟り体験者であったことを、その自伝『一人一殺』を引きながら詳細に検証します。

 なぜ悟りを得たはずの日召がテロを犯したのか。著者は、山本玄峰の証言から事件当時はまだ日召の悟境が不十分であった可能性を指摘すると同時に、悟り体験によって獲得される叡智は道徳性とは結び付いていないのではないか、だからこそ日召の他にも戦時中に好戦的な発言をした高僧が多くいたのではないかと、根源的な問いを発します。

 その上で、著者は悟り体験はあくまで自利の完成に過ぎず、大乗仏教の目的は自利とともに利他をも完成することだと説きます。多くの悟り体験者の言葉とともに語られる著者の言葉には、不思議な清涼感があり、読むと思わず座禅を組んでみたくなります。(新潮選書・1400円+税)

 新潮社出版部 三辺直太

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