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【書評】見えない文明が標的に 佐藤優氏、富岡幸一郎氏が新刊「〈危機〉の正体」

 自然災害やテロなど予想もつかない災禍に見舞われ、明日の安心が確信できない〈危機〉の時代。その現代を生きるための“処方箋”として、「異能の外交官」と呼ばれた作家の佐藤優氏と文芸評論家で保守派の論客としても活躍する富岡幸一郎氏が対談した。

 2人はスイスの神学者カール・バルトから強い影響を受けているという。佐藤氏が雑誌「群像」で危機の時代を論じるにあたり、その対談相手として、さまざまな点で認識が近い富岡氏を指名した。

 まず、議論の前提としてキリスト教的な歴史のとらえ方と一般的な日本人のそれの違いに言及。日本人は歴史を出来事の積み重ねと考え理解するのに対し、キリスト教徒は終末という歴史の終点に向けて進む直線的な時間理解をするとしている。

 その上で「危機自体を一つの世界史として見ていく必要がある」(富岡氏)と指摘。現代は世界大戦のように目に見える危機が存在するのではなく、文明のあらゆる部分が標的にされる、テロなどの危機が身近になってしまった-という認識を示した。

 佐藤氏はオウム真理教が地下鉄サリン事件を起こしたのには、その前に起きた阪神淡路大震災が関係しているとした上で「地震や噴火に象徴される事態」を「終末論的な予兆」と受け止める傾向があると指摘している。

 これに続けて富岡氏は、終末論的なイメージに富んだ村上春樹氏の『ねじまき鳥クロニクル』がサリン事件とほぼ同時期に発表されていることに触れた。『ねじまき鳥-』について「暴力の問題が多様な形で出てくる。予兆されているんです」と語る。

 他の文学作品からも現下の危機を読み解こうと試みている。佐藤氏は古川日出男著『ミライミライ』や村田沙耶香著『コンビニ人間』を挙げ、「いま絶望的な状況にいるということをふと気づかせてくれる」と、危機が常態化した時代の文学であるとの説を述べている。

 話題は相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で大勢の犠牲者を出した事件や、何かにつけて話題になることが多い格差社会、子供の貧困など多岐に及ぶ。

 キリスト教という視座を持つことで世界を深く理解できること、そして日本人の価値観が、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教といった一神教の人々のそれと大きく違っていることを思い知らされた。また、よく言われる、一神教は不寛容なのに対し、多くの神々を信仰する多神教は寛容だとする考えが的外れであることも理解できた。

 話の要所でマックス・ウェーバーや和辻哲郎ら古今東西の知の巨人たちの知見が出てきて、2人の知識の幅広さ、豊富さには目を見はるばかり。また、沖縄にルーツを持つという佐藤氏の、かの地への深い愛着には思わず胸が熱くなった。

さとう・まさる 昭和35年、東京都生まれ。作家。同志社大大学院修了後、外務省入省、主任分析官などを務めた。著書に「人生のサバイバル力」ほか。

とみおか・こういちろう 昭和32年、東京都生まれ。関東学院大教授、鎌倉文学館館長。中央大学卒。著書に「戦後文学のアルケオロジー」ほか。

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