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【ロングセラーを読む】『科挙』宮崎市定著 命がけの「試験地獄」活写

『科挙』
『科挙』

 大学入試改革が迷走する中、18~19日に最後の大学入試センター試験が全国の会場で実施される。

 そんな受験シーズンに紹介するのは、東洋史の大家、宮崎市定・京都大名誉教授(1901~95年)が中国の試験地獄の実態を余すところなく描いた作品。昭和38年に刊行、現在65刷で計約23万部。科挙という苛烈な官吏登用試験から見える受験生の悲哀や中国社会のありようが鮮やかに示され、“中国歴史もの”の定番として幅広い読者層を獲得している。

 科挙という歴史用語は教科書でもおなじみだが、その由来は、中国で官吏登用のことを選挙といい、試験科目による選挙であることから、略して科挙と呼ばれるようになった。隋の時代に始まったが、そもそもは「天子が貴族と戦うための武器として案出された」。天子が自らの権力基盤拡大に向け、息のかかったエリート官僚群を試験を通じて在野からリクルートするためだったらしい。

 科挙は時代で異なるが、主に各省で行われる「郷試」、その合格者を集めて北京で実施する「会試」、そこをクリアし宮中で行われる「殿試」で構成。最終関門を突破して官吏資格者である「進士」になれるのは約3千人に1人という狭き門だった。科挙の試験資格を得るための予備試験も熾烈(しれつ)を極めた。

 受験生は四書五経の古典やその注釈書など膨大な量を暗記して臨むが、カンニングや替え玉事件もあり、本書で紹介される文字だらけのカンニング用下着の実物は圧巻だ。独房で夜通し行われる試験では興奮と疲労で病気になったり、亡霊や幻聴に苦しめられたりするケースもあったという。立身出世の王道を目指すうちに高齢となる者も珍しくなく、不合格者の中には、不満分子となり王朝に弓を引く人物も。清朝を震撼(しんかん)させた太平天国軍の首領、洪秀全はその一人だった。

 廃止される1905年まで1300年以上にわたり、中国全土から上昇志向のすさまじいエネルギーを吸い上げ続けた科挙。その功罪も含め、本書は今もなお「試験と社会」の関係を考える上で興味が尽きない。(中公新書 680円+税) 花房壮

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