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【ビブリオエッセー】短歌が見せる新しい世界 「歌集 パン屋のパンセ」杉崎恒夫(六花書林)

 鉢植えのレモンの木に、去年は3つの実が成った。春には花が咲き、夏には小さな実をつけて、秋から冬へ、少しずつ大きくなるのを楽しみに眺めてきた。

 先日、収穫した果実をスライスして朝食の紅茶に入れると、フレッシュな香りが広がって、いつだったか、偶然目にした短歌に一目惚(ぼ)れしたことを思い出した。

 〈ティ・カップに内接円をなすレモン占星術をかつて信ぜず〉

 どんな方の作品か、詳しく調べてみると、作者は杉崎恒夫さん。二〇〇九年に享年90で亡くなられており、それまでは東京天文台(現・国立天文台)に長く勤めておられたこと、現在までに歌集は二冊上梓(じょうし)されていることなどが分かった。

 さっそく、この短歌が収録されている第一歌集『食卓の音楽』と、第二歌集『パン屋のパンセ』を続けて読んだ。ロマンチックな星の歌や温かくおいしそうなパンの歌、命の儚(はかな)さを詠んだ蝉の歌など、どれもがキラキラと美しく、作者独自の透明な感性で綴(つづ)られていた。

 〈街角でわれの心を振り向かすデジャヴュデジャヴュと六月の雨〉

 憂鬱な雨の日も、こんな短歌を思い出せば少し楽しい気分になりそうだ。

 「知る」ということは世界の見え方が変わることだと何かの本に書いてあった。杉崎さんという歌人との、本を通じての出会いは、私に新しい世界を見せてくれた。その景色は、とても豊かで美しい。

 大阪府堺市 M・K 48

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