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【ビブリオエッセー】天国へ想い届けて 「かぜのでんわ」いもとようこ(金の星社)

 岩手県大槌町にある電話線のない「風の電話」。それは「心で話す」電話だ。東日本大震災後に、民家の庭に作られ、会えなくなった大切な人への募る想いや言葉を伝えに多くの人が訪れている。

 この「風の電話」をモデルにした、いもとさんの絵本を90歳の母に読み聞かせた。

 たぬきのぼうやはおにいちゃんに、うさぎのおかあさんはぼうやに、きつねのおとうさんはおくさんに、それぞれの想いと感謝を込めて、電話線のない電話で話しかける。ある日、なんと電話のベルが鳴り、受話器を取ると満天の星が輝き始めた。それはまるで、「でんわありがとう」と空の彼方からたくさんの声が降り注ぐように。

 読む途中で感極まって中断してしまった私の背中を、母も泣きながら優しく撫でてくれた。そして母はこの五十数年間、決して口にしなかった言葉を呟いた。「父ちゃんの声が聞きたいな」と。

 震災のみならず事故や病気で大切な家族を亡くしてしまった人たちは、まだまだ言いたかったことや伝えたいことを心の中に蓄積していることだろう。そんな想いを、一気にこの電話で話すことができたら、生きる勇気が湧いてくるかもしれない。

 現実は深刻で重い内容であるため絵本とのギャップも否めない。しかし、私たちは誰もが心の奥で安らぎを求め、会えなくなった大切な人への想いを抱いている。純粋に、「会いたい、声が聞きたい」と思っているはずだ。

 いつか、天国の父へ電話をかけに、母と行ってみたい。きっとつながると信じて。

 兵庫県川西市 木内美由57

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