PR

ライフ ライフ

【ビブリオエッセー】衝撃の未来が語るもの 「生命式」村田沙耶香(河出書房新社)

 衝撃は2ページ目にやってきた。

 ありふれた、女子社員数人の昼食時間。「そういえば、総務にいた中尾さん、亡くなったみたいですね」と後輩女子。定年退職してまだ数年。「今夜、式をやるからなるべく皆に来てほしいって」。

 このあと、「中尾さん、美味しいかなあ」「ちょっと固そうじゃない? 細いし、筋肉質だし」「男の人のほうが、いい出汁(だし)が出るっていうしね」…。えっ? もう一度最初から読み直してみた。

 「文学史上、最も危険な短編集」と銘打たれたこの本。お葬式ではなく「生命式」をやると国から補助金まで出るという。読み進むにつれ単なるミステリーやSFの類ではないことに気づく。

 地球規模の災害や人口減少の不安は常にある。その対策として考案されたのが生命式。それは死んだ人間を食べながら男女が相手を探して、「死から生を生む」儀式だ。物語の衝撃を味わいながら、時代は変化し続け、家族や結婚、性に対する人々の意識もこれまでの常識を覆す勢いで変貌し続けるだろうと改めて考えさせられた。

 そのほか短編「ポチ」もいい。少女二人に裏山でペットとして飼われている男の話。従順で決して吠えたりはしないが、時々、「ニジマデニシアゲテクレ」と悲しげに鳴く。ポチになるまでの男の仕事に想像が及ぶ。いずれも異様な設定の中で、生きとし生けるものの、喜びと哀しみに満ちあふれた短編集だ。

 読み終えてしばし瞑想…。不思議な熱い感動とともに、今日一日、今この瞬間がなぜかいとおしくてたまらない。

 大阪府松原市 乾坤一擲80

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ