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【書評】慶応大学教授・巽孝之が読む『ヒア・アイ・アム』ジョナサン・サフラン・フォア著、近藤隆文訳

『ヒア・アイ・アム』ジョナサン・サフラン・フォア著、近藤隆文訳(NHK出版・4800円+税)
『ヒア・アイ・アム』ジョナサン・サフラン・フォア著、近藤隆文訳(NHK出版・4800円+税)

■照らし出す現代人の問題

 前作『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(2005年)が9・11同時多発テロをめぐるアメリカ文学の傑作と評価され、トム・ハンクス主演の映画化(11年)も話題になったのは、記憶に新しい。

 続く16年発表の第3長編である本作は、ワシントンDCに暮らすユダヤ系家族ブロック家四代にわたって展開する。タイトルは旧約聖書の創世記で神に呼びかけられたアブラハムが「はい」“Here I am”と答え、息子イサクを生贄(いけにえ)にする道行きの途上、息子に問われて答えた言葉「ここにいる」“Here am I”に基づく。神はさまざまなかたちで人類を試したが、アブラハムが息子をも差し出すのを厭(いと)わぬ信仰心の持ち主であるのを確認すると命令を解除し、彼をすべてのユダヤ民族の始祖として祝福したのだ。

 物語は9・11ならぬイスラエルを襲った災害に根ざす崩壊という危機から始まり、やがて3人の息子を持つテレビ脚本家ジェイコブと建築家ジュリアの夫婦が、秘密の携帯電話の発覚によって離婚・再婚するという家族の危機と並行して展開していく。小説冒頭ではジェイコブの祖父で、ポーランド系移民のアイザック(もちろん聖書でいうイサク)が、イスラエルの崩壊を嘆きつつも、数週間後に控える13歳の曽孫サムのバル・ミツヴァー(成人式)を待ち受ける。ところが、そのサムが学校で人種差別表現をつづったことで先生から咎(とが)めを受け、成人式そのものも危機に陥る。

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