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【本ナビ+1】『13坪の本屋の奇跡』木村元彦著 作家・北康利

北康利氏
北康利氏
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 ■徹底した顧客志向で奮闘

 「これは○○さんやったら好きな本やと思います」

 お客さまを知る力日本一を掲げ、大型書店やアマゾンの脅威に立ち向かう。大阪・谷町にある隆祥館書店店主、二村知子の奮闘の物語だ。

 かつて、井村雅代監督の指導のもとシンクロナイズドスイミングの日本代表選手だった二村は、創業者である父・善明の「出版を文化と捉えて作家を支え、本を商業主義の餌食にするな」との遺言に心動かされ、この店を継ぐことを決意する。

 大型店と同じ経営手法では太刀打ちできない。彼女が目指したのは徹底した顧客志向だった。お客との会話で好みを把握し、発刊された書籍を吟味する。そして着実に売り上げを伸ばしていった。拙著『最強のふたり』発刊の際、この店は売り上げ初速全国一位を記録している。

 だが、そんな血のにじむような努力の足かせとなっているのが日本の配本制度の矛盾だった。あれだけ売った前掲書が文庫になったとき、配本が一冊もなく、逆に頼んでもいない本が送られてきていた。

 『オシムの言葉』で知られる著者も、アマゾンで一位を獲得したこの本が、隆祥館書店には一冊も配本されていなかった事実に衝撃を受けたという。

 町の小さな書店は毛細血管のようなもの。それが詰まると早晩心臓が止まる。

 わが国の直面している大いなる危機を、この本を読むことでぜひ共有していただきたい。(ころから・1700円+税)

 ■『典獄と934人のメロス』坂本敏夫著(講談社・1600円+税)

 典獄とは今で言う刑務所長。関東大震災の際、典獄の独断で釈放された横浜刑務所の囚人たちは一人残らず戻ってきたが、心ない人々の流言飛語もあった。元刑務官の著者は丹念な取材で真実を発掘し、典獄と囚人たちの名誉回復をしながら彼らの間にあった信頼関係を明らかにしていく。その著者の執念は感動的だ。

 人間不信が蔓延(まんえん)する今だからこそ薦める価値があると確信した隆祥館書店の二村知子はなんと本書の初刷の一割を売った。読み終わった客はみな、彼女に心から感謝したという。

 13坪の町の本屋が起こした奇跡を、関東大震災の陰にあった奇跡とともに体感できる。

【プロフィル】北康利

きた・やすとし 昭和35年12月、名古屋市生まれ。東京大学法学部卒。評伝を中心に『白洲次郎 占領を背負った男』(第14回山本七平賞)など著書多数。

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