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【書評】エピソード満載 アメリカ通に 杉山恵子著「アメリカ、19世紀末のくびき」

つい人に話したくなる逸話が満載の「アメリカ、19世紀末のくびき」
つい人に話したくなる逸話が満載の「アメリカ、19世紀末のくびき」

 日本人にとって身近な国の一つであるアメリカ。しかし、その社会のありようや文化的背景は意外と知られていない。例えば代表的なアメリカ映画「風と共に去りぬ」を単なるメロドラマととらえている人は少なくない。

 しかし、「風と共に-」には、1840年代にアイルランドで起きたジャガイモ飢饉(ききん)という史実が背景にある。飢饉により大勢の死者が出て、アイルランド人が大挙してアメリカに渡ったことを知ると、映画の印象は全く別ものになる。

 作品の舞台となった「タラ」という地名はアイルランドの聖地だし、何より主人公のスカーレット・オハラの「オハラ」(O’HaraのOアポストロフィの部分)は典型的なアイルランド系の名前だ。

 「風と共に-」が新天地を求めてやむにやまれず海を渡った人たちの一大叙事詩だとしたら、本書は先にヨーロッパを飛び出し新大陸に移住して新しい国を築き、移民を迎え入れた人々のエピソードを集めた研究書だ。

 ニューヨークの観光名所、メトロポリタン美術館の設立に尽力したウィリアム・T・プロジェットとその家族を描いた幸福そうな一枚の絵から、当時の人々の心象風景を探っている。絵に描かれた黒人の人形を著者は「意のままに、動かせるおもちゃのような黒人像」と分析する。プロジェットは奴隷解放に力を貸した人物だが、黒人蔑視の心情が読み取れるというのだ。

 プロジェットの住むニューヨークにはアイルランド系移民が多く住み、南北戦争に価値を見いだせない彼らは徴兵反対暴動を起こしたという。アメリカという国が大きくなるにつれて、統合が困難になっていったという歴史。高い理想を掲げながらも、結局利己的な心理から抜け出せないという人間の業が読み取れる。

 アメリカに押し寄せた都市の移民たちに手を差し伸べた社会事業家で女性運動家のジェーン・アダムズは、バラク・オバマ前大統領が建国の功労者の一人として名前を挙げている。1931年にはノーベル平和賞を受賞したほど世界的にも評価が高い。

 しかし晩年は忘れられた存在となり、今日、アメリカ社会では顧みられることは少ないという。第一次大戦を機に反戦活動を繰り広げたためで、著者は「愛国主義と男らしさが謳(うた)われた時代には許しがたいものだった」と指摘する。不寛容という今日的問題はすでにビルトインされていたのだ。

 このほかにも、出版を通じて社会を啓蒙(けいもう)しようとしたセイモア・イートンや、新時代を開く画期的な建築を模索したジョン・J・グレスナーら、進取の精神を持ちながらも矛盾を抱えた人々が描かれている。アメリカという国を理解するための一助となる意外な話が満載で、読めば誰かに話したくなること請け合いだ。    (文化部 櫛田寿宏)

     

 すぎやま・けいこ 昭和27年、北海道生まれ。恵泉女学園大学名誉教授。コロンビア大学大学院歴史学科修了。主な著書に「ジェシーターボックス・ビールズのアメリカ」など。

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