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令和元年 私の3冊

 年末恒例「今年 私の3冊」です。日頃、本紙読書面にご執筆いただいている各ジャンルの専門家に、それぞれ今年刊行された本の中から、良書3冊をチョイスしてもらいました。また担当記者からイチ押しコミック作品も。年末年始休暇の読書にお役立てください。

≪ノンフィクション≫

□月刊『Hanada』編集長 花田紀凱

〔1〕ある「BC級戦犯」の手記 冬至堅太郎著、山折哲雄編(中央公論新社・2000円+税)

 BC級戦犯の手記を集めた『世紀の遺書』はぼくの座右の一冊だが、この本の著者、冬至堅太郎氏がその編集に深く関わっていたことはこれまで知らずにいた。

 福岡出身で陸軍主計中尉だった氏は、昭和20年福岡空襲で母を喪(うしな)い、「敵を自分の手で」と自ら買って出て4人の米兵捕虜を斬首。敗戦後逮捕され、23年に死刑判決。以来、減刑、釈放されるまでの10年間、これは冬至氏が鉛筆でびっしりつづった懊悩(おうのう)と苦悶(くもん)、魂の記録である。冬至氏の魂を再生させたのは田嶋隆純教誨(きょうかい)師の「現在を最善に生きる」というひと言だった。

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〔2〕日本人のための現代史講義 谷口智彦著(草思社文庫・900円+税)

 内閣官房参与にして安倍晋三総理のスピーチライターをつとめる谷口智彦氏が「なぜこうなっているかという世界と日本の姿を知るにはごく近い過去に何が起き、どうだったのか、因果の連鎖を知る必要がある」という思いから、戦後の歴史を通観。

 39年、東京オリンピック開会式の日、ブルーインパルスが晴れ渡った空に最高難度の離れ業で、見事な五輪を描くまでの苦労話など、エピソードフルで、目を洗われる現代史の一冊。

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〔3〕2050年のメディア 下山進著(文芸春秋・1800円+税)

 読売、日経、ヤフーを舞台にインターネット以降のメディアの闘いを元「文芸春秋」の敏腕編集者が徹底取材、今後を予測したノンフィクションの傑作だ。

 読売の渡辺恒雄主筆は毎年、仕事始めの日、社員を集めてこう豪語していた。

 「読売は盤石。いかなる戦いでも必ず勝つ」

 ところが、平成30年の正月、渡辺主筆は悲鳴とも取れる言葉を放った。

 「読売はこのままではもたんぞ」

 何が、渡辺主筆をしてそう言わしめたのか。メディアに関心ある向きは必読。

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≪時代小説≫

□文芸評論家、早大教授 高橋敏夫

〔1〕熱源 川越宗一著(文芸春秋・1850円+税)

 文明という「馬鹿(ばか)で弱い奴は死んじまうっていう、思い込み」が容赦なく襲いかかる。辺境にあってそれは根こそぎの暴力となった。明治維新後の樺太(サハリン)を舞台に、文明に抗し新たな生き方を模索する者たちが躍動する。全編を貫くのは「人の世界の摂理なら、人が変えられる」という信念だ。昨年『天地に燦たり』で登場した著者の第二作。諦観と絶望が蔓延(まんえん)する今に、著者は桁外れの輝きと熱量で挑み続ける。

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〔2〕八本目の槍 今村翔吾著(新潮社・1800円+税)

 戦国時代、民の平和をはるかに遠望する石田三成は、平和の原型を小姓仲間の愉(たの)しき日々に求めた。水平的な「なかま」の絶えまなき形成を描いてきた著者にかかれば、血腥(ちなまぐさ)い戦国武将ものも、水平的関係を豊かに育む沃野(よくや)へと一変。著者は、現代文学の中で今、時代小説が最も活気があると思わせる若手たちの先頭にたつ。

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〔3〕新蔵唐行き 志水辰夫著(双葉社・1600円+税)

 北前船とともに忽然(こつぜん)と消えた主家の若主人を捜し、岩船新蔵はアヘン戦争真っただ中の清国に渡った。新蔵にも読者にも予想外の出来事が次から次へと連鎖。時代小説を舞台に国境をこえた稀有(けう)の冒険小説だ。80歳をすぎても新たな試みに向かう「シミタツ」のひたむきさに、感動しないわけにはいかない。

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≪文芸≫

□書評家 石井千湖

〔1〕黄金列車 佐藤亜紀著(KADOKAWA・1800円+税)

 舞台は第二次世界大戦末期のヨーロッパだが、遠い出来事とは思えない。主人公のバログはハンガリー王国大蔵省の官吏。敵軍からユダヤ人の没収財産を守るため、秘密裏に運行される列車に乗り込む。戦争中だが武力は使わない、現場担当小役人ならではの戦いを描く。書類を捨てろと命じられても記録を残しておくくだりなど、あらゆる職業人におすすめしたい。仕事においては冷徹なバログの悲痛な過去にも胸を衝(つ)かれる。

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〔2〕嘘と正典 小川哲著(早川書房・1600円+税)

 年明けに選考される直木賞候補にもなった注目の作品集。「歴史」と「時間」にまつわる6編を収録する。表題作は時空を超えた謀略小説だ。東西冷戦の時代、CIAモスクワ支局の工作担当員が、ソビエト連邦の科学者と接触し、共産主義の誕生を阻止する作戦に挑む。すでにあるものを消す方法がユニークで、冒頭に出てきた〈正典の守護者〉の意味を明らかにするタイミングも絶妙だ。

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 〔3〕宿借りの星 酉島伝法著(東京創元社・3000円+税)

 『皆勤の徒』で日本SF大賞を受賞した著者待望の初長編で、異形の生物を主人公にした股旅もの。表意文字の漢字の特色を生かした斬新な造語の数々、グロテスクながらキュートな登場生物たち、どこか懐かしい風景に魅了される。

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≪漫画≫

□文化部 本間英士

〔1〕鬼滅(きめつ)の刃 吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)著(集英社・440円+税など)

 今年最も話題を集めた作品だろう。舞台は大正時代の日本。主人公の少年・炭治郎は、鬼に変えられた妹の禰豆(ねず)子を人間に戻すため旅に出る。人気キャラクターさえ次々と討ち死にする展開に衝撃を受ける一方、残酷な運命に翻弄されながらも優しさを忘れない炭治郎の姿が魅力的だ。この3カ月で発行部数を約1500万部増やすなど勢いが止まらない。既刊18巻。

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〔2〕恋と国会 西炯子(けいこ)著(小学館・591円+税)

 国会を舞台としたラブコメで、主人公は25歳の新米衆院議員2人。一人は名家に生まれた政界のプリンス。もう一人はずぶの素人である元地下アイドル。正反対である2人の出会いが化学反応を起こし今の政治の矛盾点を浮き彫りにする。国会議員が実際にどんな仕事をしているのかや、世襲議員ならではの苦しみなど、読みやすさの中に学びの多い作品。既刊1巻。

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〔3〕めしにしましょう 小林銅蟲(どうむ)著(講談社・630円+税など)

 健康、見栄え、コスパ(費用対効果)…。近年の消費者が求めるニーズに背を向けた異色の料理漫画だ。「風呂場で低温調理したローストビーフ」など、時に料理というより「実験」。旨(うま)さのみを追求した“やり過ぎ”料理の数々に笑える。不条理ギャグや漫画業界の裏話なども交え、独自の世界観を身を削り練り上げた。全8巻。

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≪ノンフィクション≫

□ノンフィクション作家 河合香織

 〔1〕急に具合が悪くなる 宮野真生子、磯野真穂著(晶文社・1600円+税)

 がんの転移を経験しながら生き抜いた哲学者と、彼女に伴走した医療人類学者が生と死、不確実性と偶然性に向き合った往復書簡。苦しいときもユーモアと冷静さを失わないのは知のなせる技だろう。未来に向けて他者とともに何かを生成しようとすれば、人間は最期の時までこんなに美しいラインをこの世界に描き続けられるのかと心揺さぶられた名著。

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〔2〕しらふで生きる 大酒飲みの決断 町田康著(幻冬舎・1500円+税)

 30年間毎日酒を飲み続けた作家が、酒をやめた経験を思索した書。なぜ人は酒を飲むかといえば、自分は幸福になる権利があるが、それが不当に認められていないと思うからだ。だが、飲んでも飲まなくても人生はそもそも寂しいと喝破する。さらに「自分は普通以下のアホ」だと認識すべきだという。禁酒だけではなく、他者へ怒りを持たなくなるという効用もあった。

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〔3〕吃音 伝えられないもどかしさ 近藤雄生著(新潮社・1500円+税)

 私も子供が吃音(きつおん)かもしれないと悩み、育て方が問題だったのではないかと自分を責めた経験がある。自身も吃音で苦しんだ著者は、吃音によって自殺者まで出るほどの孤独ともどかしさを描いていく。浮かび上がるのは、人が互いに尊重するためには、どのように関わるかという問題だ。静謐(せいひつ)で温かみがある文章が、人それぞれが持つ哀(かな)しみと希望に光を照らした。

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≪翻訳小説≫

□文芸評論家 池上冬樹

〔1〕刑罰 フェルディナント・フォン・シーラッハ著、酒寄進一訳(東京創元社・1700円+税)

 罰をめぐる短編集で、人間の精神と犯罪の関係を捉える深い洞察に圧倒される。余分なものを削(そ)ぎ落として象徴性が高い。どれも静かで異様に狂おしく、驚くほど澄み渡り、張りつめている。喚起力のある文体は生々しく、唖然(あぜん)たるひねくれたユーモアで運命の皮肉をのぞかせる。何度も読み返したい複雑で深遠な人生の諸相がある。

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〔2〕Xと云う患者 龍之介幻想 デイヴィッド・ピース著、黒原敏行訳(文芸春秋・2400円+税)

 芥川文学をノワールの旗手が大胆緻密にコラージュした傑作集。たとえば本書所収の「地獄変の屏風(びょうぶ)」は、「河童(かっぱ)」「侏儒の言葉」「或(ある)阿呆(あほう)の一生」「点鬼簿」「大導寺信輔の半生」などの細部を掛け合わせて全く新しい(でもどこまでも芥川文学的な)作品だから驚く(翻訳も素晴らしい)。芥川文学の細部を点検しながら読むと喜びと昂奮(こうふん)が二倍になる。

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〔3〕流れは、いつか海へと ウォルター・モズリイ著、田村義進訳(早川書房・1900円+税)

 私立探偵が過去の冤罪(えんざい)の解明と、死刑宣告された黒人ジャーナリストの無罪証明に奔走する物語。展開は波乱に富み、人物たちはみな個性豊かで印象深く、至るところに箴言(しんげん)がちりばめられていて、読みながら何度もため息をつく。惚(ほ)れ惚(ぼ)れするほど鮮やかで豊かな、ずっと読んでいたくなるような人生・社会観照小説だ。あらゆる小説ファンにお薦めしたい。

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