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【ビブリオエッセー】祖母が教えた「命をつなぐ物語」 「西の魔女が死んだ」梨木香歩(新潮文庫)

 人には別れの時が必ずやってくる-。相手を大切に思えば思うほどその時がくることを恐れ、想像するだけで悲しくなるものだ。そんな時、必ず読み返すのが、『西の魔女が死んだ』である。

 中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった主人公の少女まいは、ひと月あまりの時を田舎にひとりで暮らす“西の魔女”、ママのママの家で過ごすことになった。

 この英国人女性の祖母は何を諭すわけでもない、ひたすら日常に寄り添ってくれる。菜園で育てた野菜や香草、そして鶏…手作りのていねいな暮らし。祖母との間に初めて“幸福”を覚えるまい。

 私にも彼女と同じように祖母の他愛ない仕草のひとつひとつに救われた経験がある。親子とも違う絶妙な距離感、だからこそ沸き立つ愛がそこにはあると思う。干渉し合わずとも、無言で存在を認めてくれる温かで皺々(しわしわ)な手。

 まいの“魔女修行”は祖母に生き方を学ぶことだ。「自分の直観を大事に」「でも、その直観に取りつかれてはなりません」と語る祖母。「人は死んだらどうなるの」と聞かれ「分かりません」と答えたあと、「十分に生きるために、死ぬ練習をしているわけです」と魂の話をした。

 たとえ別れの時が来ようとも、それを恐れず、消えることのない愛の記憶が二人をつないでいるという絶大な安堵感を与えてくれる本書。いま目の前にいる人を改めて大切にしようと思えるこの作品をひとりでも多くの方に読んでもらいたい。「命をつなぐ物語」がここにある。

 東京都葛飾区 YUKI33

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