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【ビブリオエッセー】日常のループからの逃避行  「いつまでもここでキミを待つ」ひろのみずえ(ポプラ社)

 その場の衝動に任せ、行き先も決めない旅に出る。若い頃、そんな旅にあこがれました。思えば誰もが、ふとした瞬間、自分を取り巻く環境から逃亡したいという思いに駆られるのではないでしょうか。それを実行できるのはティーンエイジャーならではの特権なのかもしれません。

 物語の主人公、中学三年生の清水奏(かな)ちゃんも美術スクールからの帰り、横浜駅のプラットホームで、それを決行します。日常の決まりきったループと教育熱心な母親の期待からの逃避行は、発車寸前の「寝台特急サンライズ号」に、思わず飛び乗ってしまうことで始まります。

 この奏ちゃん、こうしたお話の主役にしては、やたらにおどおどと、自信なげで内省的な性格。そんな奏ちゃんがたまたま同じ列車に乗り合わせたヤンキーっぽい家出少年、カズマと旅を共にするというストーリーです。

 年下のカズマから物知らずを笑われたり、怒声を浴びせられ、すくみあがったり。気性が荒く口の悪いカズマとは何ともちぐはぐでかみ合わせの悪いコンビなのです。

 が、旅を続けるうち二人は互いの事情や悩みを打ち明けるようになります。結局、旅館からの連絡で両親が駆けつけ、ささやかな逃避行は後味悪く終わるのですが、奏ちゃんは、ひとつの決心をしていました。

 宮島、尾道、雨の鞆の浦の描写に旅情をそそられます。主人公のおぼつかなげな様子が、遠い日の自分の姿と重なって見えるせいでしょうか、このどこか寂しげで、ぶきっちょな女の子の旅物語を、私はひそかに愛しています。

大阪市東淀川区 永田美咲54

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

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